40_セリカの災難

結局、栞(しおり)さんは起きてこなかった。

日ごろから忙しいのかもしれない。

今日は有給だって言ってたから、合いカギとメモを置いておけば大丈夫だろう。

何かあっても、さくらが対応してくれる。


「セリカくん、忘れ物ない?」


玄関でさくらが尋ねてきた。


「ああ、大丈夫」


何か忘れても、今日は半日だけだ。

どうとでもなるから、そんなに心配する必要はない。


「じゃあ、いこっか」


「?」


さくらも一緒に家を出た。

朝から久々に制服を着ていると思ったら、送りたかったのだろうか。


「へへへ、制服デートみたいだね。憧れてたの・・・」


なんか可愛いことを言ってくる。

これがしたかったのかと合点がいった。


それならばと、学校近くまでは一緒に歩くことにした。

さすがに手をつなぐのは憚(はばか)られた。


私服で休みの日に手をつないで歩くのと、平日の朝に制服で手をつないで歩くのでは『重み』が違う。


「手はつないでくれないんですか?」


「さくらみたいな美少女と手をつないで歩いてたら、俺クラスでいじめられるよ」


「どんな発想なんですか。セリカくんはそれくらいでは、いじめられませんよ」


「うちのクラスには、うちのクラスの色々があるんだよ」


「『空気を読む』ってことですか?」


「まあ、そんな感じ」


(ガバっ)さくらが思いっきり腕を組んできた。


「じゃあ、腕を組んで歩いていたら大変ですね!」


「うわ!だから!」


「えへへ、冗談です」


「冗談も何も既に抱き着いたろ」


「夢だったんです」


どんな夢なんだか。

周囲の生徒の注目を集めていた。


そりゃあ、これだけ可愛い子が歩いていたらそれだけで目立つだろう。

しかも、一人だけ違う学校の制服。


こんなのピラニアの池にA5ランクの和牛を放り込むようなものだ。

まあ、ピラニアが和牛を好きかどうかは知らんが。


お、そろそろ学校だ。


「じゃあな、ここらへんで」


「はい、それじゃあ、またあとで」


「ああ」


今日も午前中授業だからな。

昼飯前には学校も終わる。


『行ってらっしゃい』というより『またあとで』という感じなのだろう。


さくらと別れた後、靴を履き替えて教室へ行った。

教室ではカオスが待っていた。


(ガラッ)「はよー」


「来た!セリカが来た!」


「あ!セリカだ!」


いつもの本田と鈴木が俺の席に集まってきた。

なんだ?いじめかな?


「おい!昨日の女、誰だよ!?」


『昨日の女』とは?

俺の頭の上にでっかいハテナがにゅるーっと出始めた。

さては、こいつ、誰かと見間違えてるな。


「なにそれ」


席に座って、鞄を机の横のフックにかけながら余裕で答えた。


「しらばっくれんな!」


「そう!真っ赤なスポーツカーのお姉さん!!」


あ、それ、栞(しおり)さんのことだ!

クラスのやつには見つかっていないと思っていたのに・・・

ぬうっ!


しまったな。

誤魔化すための言い訳を考えてない!


「いや~、ほら、親的な?」


「あんな若い親がいるか!誰だよ!彼女か!?」


朝来ていきなりピンチ。

頭皮からも汗が拭きだしている。


「なに?あの後、あのスポーツカーでデートか!?」


「今もお前んちのベッドで寝てるんじゃないだろうな!」


微妙に鋭い!

まあ、秘密にする必要もないので、ちゃんと答えてもいいのだが、ただ、ちゃんと説明するとかえって誤解を招きそうだ。


「あ、おはよう。セリカくん」


そこに助け舟ともいえる照葉(てるは)が来た。


「はよ」


「今朝ねぇ、千早(ちはや)ちゃんが、女の子と歩いてるセリカくんを見たとかいうんだよ」


うっ!微妙に助け船じゃなかった。


「なになに?それが昨日のお姉さん!?」


本田が乗ってきた。


「う、いや、それとは別の・・・」


「別もいるの!?お姉さんの他に!?」


「どうなってんの!?お前の周り!」


ああ、微妙に誤解じゃない部分もあって、全否定が出来ない・・・

何と言ったらいいのか・・・(滝汗)


(ガラッ)「おらー!全員席に着け―!」


担任の佐伯(さえき)だ。

今度こそ助かったー。

クラス中が蜘蛛の子を散らすように動き、自分の席に戻って行く。

「おらー!美少女転校生を連れてきてやったから、キンタマ組は騒ぐんじゃねえぞ!」


ん?転校生!?


ドラマの様に、一旦教師だけ教室に入り、後から転入生が入ってくるお約束はなかった。

ま、実際はそんなもんだよな。


しかし、今、大事なのはそんなことじゃない!

さっきまで一緒に歩いていた残念美少女こと、さくらが『表モード』の顔で教師の隣で教壇に立っているのだ!


「はあ~!?」(ガタン!)


俺は思わず立ち上がった。


「うるせえぞ!鳥屋部(とやべ)!可愛い女子が来たからって目立とうとすんな!」


(ガタン)「「「わはははは」」」


みんなに笑われながら俺は座った。

なぜ!?なぜ!?

家にいるはずの、さくらがここにいる!?


誰か、たまたまいた転入生と入れ替わってる!?

そんな漫画みたいなことがあり得る訳がない・・・


いや、待てよ!

栞(しおり)さん!


まさか、さくらの転入手続きのために、学校に来たのか!?

そっちがメイン!?

教科書を持って帰るためじゃなく!?


そりゃそうだろうな。

教科書があんなに大量にあるって俺が知ったのは、教科書を買う直前だし!


俺が一人わたわたしていると、前でさくらが自己紹介をするタイミングだった。


(ペコリ)「初めまして、堀園(ほりぞの)さくらです」


さくらが深々とお辞儀をして挨拶をした。


「「「おおおおー!」」」


男子たちの興奮がMAX!


「可愛い!可愛いぞ!」


「アイドルかな!?アイドルがきたのかな!?」


「マジか!?マジか!?」


「俺ドキドキしてきた!!」


クラス中がザワザワし始めた。


「おらー!うるせえぞ!キンタマ組!堀園(ほりぞの)の挨拶が聞こえねえだろ!俺はなぁ、男(ヤロウ)の声なんか聞きたくないんだ!堀園(ほりぞの)の可愛い声が聞きたいんだ!」


担任の佐伯(さえき)は、口が悪い上にアレだからなぁ・・・

とりあえず、静かになる教室。

さくらの挨拶が続くらしい。


「あ、えっと、福岡の田舎の方から来ました。こっちには・・・」


さくらが、ちらりとこちらを見た。

何か嫌な予感がした。


「許嫁の、鳥屋部(とやべ)セリカくんを追いかけて来ました。どうぞよろしく」(ペコリ)


挨拶の最後にまた深々とお辞儀をした。

静まり返る教室。


次の瞬間・・・・


「「「なあにぃ!!またセリカぁ~!!」」」


うわあぁ、これは酷い。

教室中がコントロールできない騒ぎになってしまった。


佐伯も『はい、キンタマ組解散、かいさーん!堀園(ほりぞの)の席は・・・なんか適当に話し合え』と投げやりなことを言って、教室を出て行ってしまった。

ホームルーム終了ということだろう。


その後の教室は暴動のような大変な騒ぎだった。


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