39_照葉の危機

私こと、小鳥遊(たかなし)照葉(てるは)は、今、人生で最大の危機に直面している。


小学校からずっと一緒だった、セリカくんが春休みのたった2週間で別人のようになって登校してきた。


これまで、千早(ちはや)ちゃん情報では、『セリカくん狙いは照葉(てるは)ちゃんだけだよ』と、倍率は1倍だったが、セリカくんの劇的変身で数倍から数十倍に跳ねあがったらしい(汗)


今まさに学校に向かっている時にも千早(ちはや)ちゃんには釘を刺されている。


「照葉(てるは)ちゃん、このままじゃ、セリカくん取られちゃうよ?」


「な、な、なん、なんのことかなぁ?」


「その調子で、小・中・高と、あったかぬくぬく過ごして来ちゃったんでしょう?」


「・・・そうなんだけど」


「取られちゃったら返ってこないよぉ?」


「・・・そうなんだけど」


「もしかしたら、万が一、億が一、兆が一、千番に一番の兼ね合いだけど、セリカくんが照葉ちゃんに告白するためにダイエットしたって可能性も無きにしもあらずだけどね」


「ものすごく確率が低いことだけは伝わったよ・・・」


いつもの通学路だけど、足取りは重い。

気持ちも重い。


「私、どうしたらいいかなぁ?」


そんな答えのない質問を千早(ちはや)ちゃんに投げかける。


「そんなの簡単だよ」


「え?どうすれば?私、どうすればいいの?」


親友にアイデアを乞う。


「照葉(てるは)ちゃんから告白しちゃうの」


「それは無理でしょ~」


引っ込み思案の私にそんな大胆なことができるはずがない。


「でも、小学校の時から好きなんだよね?」


「ま、まあ・・・」


改めて言われると照れる。


セリカくんは、小4の時に引っ越してきた。

それまで私は小鳥遊(たかなし)と言う名前で近所の男の子にいじめられていた。


『ことりあそび』とか『ことり』とか言われていた。

今思えば、気を引こうとして、ちょっかいをかけていただけかもしれない。

それでも、自分や家族を指す苗字をばかにされることで、小さい私は深く傷ついていた。

近所の男の子は、私のことを揶揄(からか)う流れになっていた。


そこに、引っ越してきたのがセリカくん。

全く空気を読まず、私を助けてくれた。

私の心は本当に救われた。


その後、セリカくんとばかり遊ぶようになった。

揶揄(からか)わない方が仲良くなれると、他の男の子にも証明になったのか、私を揶揄(からか)う子はいなくなった。


それが出会い。

それがきっかけ。

私は、それからずっとセリカくんを追いかけていた。


「中学の時は、何て呼んでいいか分からずに、『ねえ』とか『ちょっと』とかで誤魔化(ごまか)していたんだよね?」


「そうだけど」


千早(ちはや)ちゃんには、セリカくんのことをたくさん話した。

いつも親身になって聞いてくれる千早(ちはや)ちゃん。


彼女はいつも私のことを真剣に考えてくれている。

きっと彼女が言っていることの方が正しいのだろう。


「高校になって、呼び方を『セリカくん』にしたんだよね?しかも、一人だと恥ずかしいから、セリカくんの友達に根回しして、みんなも『セリカくん』って呼ぶようにしたんだよね?」


「・・・そうだけど」


「中学の時、高校はどこに進むのか分からないから、職員室に忍び込んで先生の机の上から進路調査表を盗み見たんだよね?」


「そうだけど!」


「もうそれ、絶対好きじゃん!いま動かないと後悔するよ~」


「そうかなぁ・・・」


言ってて恥ずかしくなってきたので、急にもじもじしてしまう。


「絶対そう!」


「もう伝わっているっていう可能性はないかな?」


「またそんな・・・」


「だってぇ」


「あいつはね、言っちゃあ何だけど、相当鈍いよ!」


「そんなことないよぉ。相当鋭いって言ってた」


「誰が?」


「セリカくんが」


「まさかの本人かーい!」


千早(ちはや)ちゃんがコントの終わりの様にツッコんできた。


「一応・・・一応だけど、告白するとしたら、いつかなぁ?」


念のため千早(ちはや)ちゃんの意見を聞いておこうと思ったのだ。


「もちろん、今日。定番は放課後ね」


「そしたら、朝から1日中ドキドキで何も手につかないよぉ」


「じゃあ、アサイチ。教室に入った後、すぐに『好きやで』って」


「そんなこと言えたら、こんなに悩んでないよぉ!」


「ふふふふふ」


私はセリカくんは好き。

だけど、付き合えなくてもいいの。


毎日学校で会えるし、お話もできる。

夜にメッセージを送ってもあんまり返ってこないけど・・・

セリカくんはいつもそんな感じ。

そりゃあ、お休みの日に一緒に出掛けられたら素敵だけど・・・


「噂をすれば・・・あれ、セリカくんじゃない?」


「え?嘘!?どこ!?」


「ほら、ずーっと先の、今スタンドの前くらいを歩いてる」


「え?え?見えないよぉ」


「照葉(てるは)ちゃん、背低いもんねぇ」


「そんなことないよ!身長はこの間、計った時なんて・・・」


「あれ?女子と歩いてない!?違う学校の制服みたいな・・・」


「もー、そんな訳ないでしょ!また揶揄(からか)って~」


「あ!女子が抱き着いた!」


「もお~!そこまでいったら、私でも揶揄(からか)ってるんだって分かるよ!」


「ふふふ、そうだよね。そんな訳ないよね」


「もー、びっくりしたよぉ!」


本当は、こんな日がいつまでも続けばいいと心の中では思っていた。

今日、朝のホームルームが始まるまでは・・・


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