許嫁と学校

31_セリカの新学期

長いようで短かった春休みも終わり、俺たちは2年になった。

1年の時とクラスのメンツは同じなので、特別変化などは感じない。

変わったことと言えば、教室が3階から2階に替わったことくらいだろうか。


俺が新しいクラスのメンバー表と場所が書かれた紙を見て新しい教室に行った時に、ちょっとした事件が起きた。

教室に入ったと同時だった。


「はぁ~!?お前、セリカ!? セリアなのか!?」


何だかうるさいのは、クラスメイトの本田だ。


「どうした本田、春休みボケか?」


「まじか!? ほんとにセリカだ! お前どうしたんだよ」


「どうしたって、何が?」


出席番号順なので、前後のやつを見れば自分の席はすぐにわかった。

俺が新しいクラスの自分の席に鞄を置きながら尋ねる。


「何か、小ざっぱりして、あれ? 痩せたよな!?」


そう言えば、結局春休み中、毎日さくらとどこかに出かけていた。

さくらが走りたいというので、付き合ったこともあったし、バスケがしたいとか謎なことを言うので、コートがある公園を探したり・・・


結構遠くまで出かけた気はする。

運動もそれなりしたかも。


「ああ、ちょっと運動したかも」


「ちょっとって・・・、しかも、顔色だ! 顔色が良い!」


顔色は完全にさくらの手柄だろう。

毎日あんなにおいしい食事、そして栄養のバランスのとれた食事を3度3度食べたいたら、健康にもなろうというものだ。


「そうだな。ちょっと食の改善を・・・」


「おい! 鈴木、松田! こいつセリカだぜ!」


いつも一緒につるんでる鈴木と松田にも声をかけがった。

ちょっと痩せたかもしれないけど、その程度のことだろう。

また大げさに騒いで・・・


「まじか、ほとんど別人じゃないか!」


「一瞬、転校生かと思ったぜ」


鈴木と松田も本田と同じようなことを言う。

普段、大体この4人で遊んでるんだが、そんなに印象って違うものだろうか。


体重は5kgくらい減ったかもしれない、髪はさくらがカットしてくれた。

服は制服だから変わらないし、顔色は・・・自分ではよくわからん。


「え?そんなに違う?」


自分では分からないので、頬を触りながら聞いた。


「ばか、全然違うよ! 大体お前、高校デビューなら1年の時にするもんだろ!」


「何だよ、高校デビューって・・・」


周囲の席に勝手に座り込んで話始める。


「あ、ごめん。そこは僕の席だよ」


横に彼女を連れて入ってきたのは、元クラス委員の豊田晄士とよたあきと、隣の女子は六連星むつらぼし朱織あかりだ。


豊田は、誰とでも80点の付き合いができるイケメンで、1年の時はクラス委員もやってしまう、とてもいいヤツだ。

心も体もイケメンってチート野郎だ。


六連星むつらぼしさんはその彼女で、すごく可愛い。


晄士あきと~、朱織あかりの席と晄士あきとの席離れちゃってるよぉ。またクラス委員になって、クラス委員権限で隣の席にしてぇ」


朱織あかり、クラス委員にそんな権限はないよ」


六連星むつらぼしさんは、とても可愛いのだが、ちょっとおバカなのがあちこちに滲み出しているのが少し残念な子だ。


秀才イケメンの豊田とポンコツ美少女の六連星むつらぼしさんはどういう訳か付き合っている。

意外に合うのかな?


「んん?誰これ?」


その六連星むつらぼしさんが俺の方を見て言った。


普段、会話することもないから六連星むつらぼしさんは俺のことなんて見えてなかったのかもな。


鳥屋部とやべだよ。鳥屋部とやべセリカ。また同じクラスだな、六連星むつらぼし朱織あかりさん」


俺は、はいはい、といった具合に少し冷め気味に答えた。


「えー、鳥谷部くんなの? 別人じゃーん!」


六連星むつらぼしさんが親指と人差し指で自分のあごを触りながら、顔を近づけてきた。

近いよ!

これだからリア充の距離感は・・・


「かっこいいじゃんー。整形?」


「はは、ちょっと痩せただけだよ」


「あ、高校デビューってやつ?」


「俺2年だよ。六連星むつらぼしさんだって1年の時、同じクラスだったでしょ」


「えー、こんな顔だっけ~?」


首を傾げてくる。

とても失礼なやつだ。


六連星むつらぼしさんが騒いでいるのを見て、周囲の女子が集まってきた。

それだけ彼女には上位カーストとしての力があるのだろう。


「えー、鳥谷部くん? 鳥谷部くんなの?」


さっきからそう言ってる。


「髪切った?」


タモリか!?


「痩せたの? ダイエット? 何したのぉ?」


遊んでただけだが・・・


何故だか周囲の女子に質問攻めだ。



本田、鈴木、松田がどんどん遠くに追いやられてる。


「鈴木、なんかセリカにモテの予感を感じるぜ」


「確かに! 大丈夫なのか!? 小鳥遊たかなしさんはまだか?」


「そろそろじゃないか?」


何か久々にクラスに来て、わちゃわちゃになって俺は疲れ始めていた。

あんまり一度にたくさんの人と話すのって苦手なんだよ・・・


正直、女子とか名前を覚えてない人とかたくさんいるし。


その時、クラスの注目を集めるやつが入ってきた。


「やったー! 間に合ったーっ!」


さっき話題になった小鳥遊たかなし照葉てるはだ。

遅刻しそうだったのか、騒がしく走ってきた。


何となく小学校からずっと同じクラスの女子だ。

たまたま同じ高校ってのは分かるが、同じクラスってのはすごい。


「おはよー、せっ!? 鳥屋部とやべセリカくん!?」


何故、フルネーム!?

照葉てるはは、付き合いも長いことから俺のことを『セリカくん』と呼んでいる。


「ああ、おはよ。照葉てるは


「え?ええ?えええ!?どうしたのそれ!?」


「別に何も」


今日イチのリアクション・ガールが登場した。

ちなみに、俺も昔から『照葉てるは』と呼んでいる。


周囲が盛り上がるのに反比例して、俺の気はどんどん重くなっていった。

ただ、これまでの静かな学校生活が変わり始めているのは、何となく感じていた。


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