第103話 勇者業はブラック

 笑死族の拠点から帰還した。


 軽く褒められて、次の拠点に行くことになった。


 おい、ちょっと、少しは休ませろよ!?


 なんというブラック労働なんだ!!


 まあ、人類に余裕がないみたいだから、仕方ないことなんだろうけどさぁ。



 今度の拠点は、俺の家から車で30分くらいの場所にあるそうだ。


 なので、近くまで車で送ってもらった。


 さて、さっさと倒してしまおうか。



 笑死族の拠点に着いた。


 な、なんだここは!?


 た、建物が……


 何もないぞ!?


 ただのちょっと広めの雑草が生えている空き地だぞ!?


 どういうことだ!?


 ま、まさかの青空拠点なのか!?


 前の拠点は要塞があったのに、なんでここはこうなんだ!?


 無防備過ぎないか!?


 まさか予算がなくて、何も建てられなかったのか!?


 まあ、どうでもいいけどな!


 あ、また白い紙袋の不審者たちが笑死族を作っているぞ。


 さっさと倒して帰ろう。


 俺たちは空き地に入った。



「むっ、侵入者か!!」


 え?


 どこかから聞き覚えのない声が聞こえたぞ。


 いったいどこから?


「愚かな人間どもめ、わざわざ死にに来たのか?」


 下の方から声が聞こえたぞ。


 そこを見てみたが、雑草がたくさん生えているだけだな。


 誰が話しているんだ?


「良かろう、ならば、この笑死族、千九百六十三大聖剣士団の、エノコログサ・ネコジャラシが相手になろう!!」


 千九百六十三大聖剣士団!?


 なんだそれは!?


 数が多過ぎるだろ!?


 なんでそんなにいるんだよっ!?


 その数に何か意味があるのか!?


 それに、いったいどこにいるんだ!?


 仕方ないので、実況と解説を召喚して聞いてみた。


「おおっと、あれは笑死族のエノコログサ・ネコジャラシさんですね!!」


「いやあ、実に見事なエノコログサですねぇ」


 だから、どれだよ!?


「その先端がブラシのようになっている植物です!!」


「高さ50センチくらい、20センチくらいの細長い楕円形の葉がついていて、茎が細い緑色の植物ですねぇ」


 それっぽい植物が、空き地一面に生えているぞ?


 どれがエノコログサ・ネコジャラシなんだ?


 というか、この草は地球にも生えてなかったか?


 この星には地球と似たような生物が、たくさんいるんだよな。


 偶然似たような進化をしたのかな?


 まあ、今はそんなことは、どうでもいいか。


「そのすべてがエノコログサ・ネコジャラシさんです!!」


「なんと言っても、千九百六十三大聖剣士団ですからねぇ」


 すべてなのか!?


 数が多過ぎるだろ!?


 まさかギャグじゃなくて、本当にその数だけ生えているのか!?


 なんて面倒なんだ!?


「フハハハハッ!これを食らえ、人間ども!!」


 エノコログサ・ネコジャラシたちの先端が、小刻みに揺れ出した。


 猫なら大喜びで飛び付きそうな動きだな。


 さすがはネコジャラシだなぁ。


 で、こいつらは何がしたいんだよ?


 俺たちは猫じゃないぞ?


 まあ、良いか、とりあえず、むしってみよう。


 俺は目の前のエノコログサ・ネコジャラシの、茎の部分つかみ、むしり取った。


 あれ?

 俺たちって、草むしりに来たのか?


「グアアアーーーッ!!!な、なんだと!?なぜ笑わない!?人間ではないのか!?」


 エノコログサ・ネコジャラシが、変なことを言っているぞ。


 笑うと思って、やってたのか!?


 なんでそんな思い込みをしているんだよっ!?


 ま、まさかこの星の人間は、ネコジャラシを揺らしただけで笑うのか!?


 衝撃の事実発覚なんだが!?


 どんだけギャグに弱いんだよ!?


 いくら笑死力があるからって、弱過ぎるだろ!?


「ならば、これはどうだ!!我が聖剣を食らうが良い!!」


 エノコログサ・ネコジャラシが、そう言って、先端を激しく揺らした。


 猫まっしぐらな動きだなぁ。


 俺たちではなく、猫にやってあげた方が喜ばれるのではないかと思うぞ。


 それとなんで聖剣って、呼んでいるんだ?


 ギャグなのか?


 それとも自画自賛なのか?


 どちらであろうと、くだらなさ過ぎるぞ!!


「笑わないだと!?ま、まさか、お前たちは勇者なのか!?」


 また勇者扱いされたぞ!?


 ここの勇者って、不愛想とかポーカーフェイスって意味なのか!?


 まあ、そんなのどうでもいいか。


 さっさとこいつらを倒してしまおう。


 でも、いちいちむしるのは面倒だな。


 もっと手早く倒せる方法はないものか?


 また爆発させようか?


 いや、ちょっと待てよ。


 それだと根っこが残る可能性がありそうだな。


 来年になったら、また生えてきちゃいました!!

 なんて事態は避けないとマズいよな。


 キチンと根っこまで除去する方法じゃないとダメだな。


 とすると、除草剤を使うしかないのか?


 こいつらに効くのかな?


 うーん、分からないから試すしかないか。


 とりあえず、ホームセンターで買ってこよう。


 偶然近くにあった、こんな時でも営業している、すごいプロ根性のホームセンターで除草剤を買ってきて散布してみた。


「こ、これは、アアアアアーーーー!!!!」


 エノコログサ・ネコジャラシが、断末魔の叫びを上げ、動かなくなった。


 これで倒したのか?


「やりました!!挑戦者の勝利です!!!」


「いやあ、見事な頭脳プレイでしたねぇ」


 実況と解説が、ああ言っているから倒したのだろう、多分。


 さて、後は白い紙袋の不審者たちを倒して、帰るとするか。

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