第101話 勇者になりました

 笑死族を倒したことが、周囲の人たちに知れ渡ってしまった。


 まあ、隠れて戦っていたわけではないから、当然だけど。


 その結果、俺とカナは周囲の人々に勇者扱いされた。


 さらに国会議員を名乗る見知らぬ偉そうなおっさんに、笑死族を倒しに行って欲しいと頼まれた。


 まだ10歳の子供にこんなこと頼んでくるとか、大人として恥ずかしくないのか、と思ったが、どうもこの世界にそんな余裕はないようだ。


 笑死族に、かなりの人数が笑わされて、病院送りになったそうだ。


 犠牲者もいるらしい。


 せっかく苦労して、良い環境に生まれたのに、人類存亡の危機なのかよ!?


 こんな状況では、愚痴を言っても仕方ないか。


 俺たちは笑死族退治を、引き受けることにした。


 もちろん報酬はもらうがな。


 ちなみに俺とカナの両親は、入院になったけど命に別状はないそうだ。



 笑死族は俺の家から徒歩15分ほどの場所に、拠点を設けたそうだ。


 近所じゃないか!?


 いつの間に!?


 まあ、とにかく、モヒカンスケルトンは、そこから来たらしい。


 まずは、そこから攻め落とすことになった。



 笑死族の拠点にやって来た。


 な、なんだこれは!?


 中世の時代にありそうな、ものすごくデカい石造りの要塞だ。


 周囲は現代的な住宅街なので、違和感がものすごくある。


 いつの間に、こんなの造ったんだろうか?


 まあ、そんなのはどうでもいいか、多分魔法だろうし。


 さあ、入るか。



 ん?


 入口に看板があるぞ。


 八百屋、という文字が書いてある。


 その文字の下には、Tシャツの絵が描いてある。


 さらに、その下には、ご利用は計画的に、と書いてある。


 なんだこれは!?


 八百屋でも、服屋でもないだろ!?


 ご利用って、何をだよ!?

 利用するところなんて、何もないだろ!?


 何をやっているんだ!?


 あ、そうか、これは笑わせようとしているのか。


 俺が見ても、くだらないものとしか思わないけど、この星の人には危険だな。


 笑い過ぎて、死んでしまうかもしれない。


 よし、破壊しておこう!


 オーラが出る能力を使用し、看板を蹴って破壊した。


 では、中に入ろうか。



 中は殺風景だな。


 インテリアがまったくないぞ。


 戦う場所に、そんなものはいらないということなのか?


 潔いな。


 では、先に進もうか。


 お邪魔します。



 奥に進んだら、広間に出た。


 ここもインテリアがまったくない、広いだけの場所だ。


 そこに見覚えのある物体がいた。


 あれって、迷宮のボスの目威九さんじゃないか?


 いや、確か本物は、もっと大きかったような覚えがある。


 目の前にいるヤツは、全高1メートルくらいだな。


 他は同じだ、朱色の目出し帽をかぶった首だ。


 数も同じで、9体いるぞ。


 なんであんなにそっくりなんだ?


 偶然なのか?

 いや、それはちょっと不自然過ぎるよなぁ。


 いったい、なんなのだろうか?


「おおっと、あれは目威九さんのモデルになった方ですね!!」


「いやあ、お顔を拝見することができて、うれしいですねぇ」


 実況と解説!?


 なぜここにいるんだ!?


「私が召喚しましたよ。あそこの方が気になったので」


 カナが召喚したのか。


 まあ、俺が召喚してないのだから、当然そうなるよな。


 って、今、実況が目威九さんのモデルって言わなかったか!?


 そんなのいたのかよっ!?


 あいつって、お笑い担当のオリジナルじゃなかったのか!?


「むっ、何者だ!?」 


 あ、見つかってしまったみたいだな。


「人間だと!?なぜここに!?看板を見なかったのか!?」


 あの入り口の看板で、セキュリティが万全だと思っていたのか!?


 さすがにそれは慢心なのでは!?


 いや、でも、この星の人間は笑いに弱過ぎるからなぁ。

 妥当な評価なのか?


「フフフッ、まあ、良い。お前たちは、この笑死族四天王の一人、キュースィーが始末してやろう!」


 四天王!?


 そんなのがいるのか!?


 いきなり幹部と戦うことになるなんて、俺たち大丈夫かな? 


 後、名前が急須っぽいな。


 まあ、そこはどうでもいいけど。


「な、なんだと!?笑わないだと!?」


 ん?

 なぜかキュースィーが驚いているぞ?


 どういうことだ?


「四天王の一人なのに、顔が9人いると思わないのか!?それに四天王なのに9人いるだろ!?」


 キュースィーにそう聞かれた。


 こいつは何を言っているんだ!?

 もしかして、ツッコミの催促なのか!?


 そもそも、こいつは9人いることになるのか?


「そんなのどうでもいいと思うのだが……」


 面倒なんで、ツッコミはしないぞ。


「ど、どうでもいいだと!?人間のくせに、笑わないうえに、こんな感想を述べるとは!?ま、まさか勇者なのか!?」


 勇者!?


 笑わないと勇者なのか!?


 判断基準そこなのか!?


「魔王様に仇なす存在、ここで処分しなければ!!」


 というわけで、戦うことになった。



「ゆくぞ!これを食らえ!!」


 キュースィーが横方向にゆっくり回転しながら、頭頂部からシャワーのように水を噴出した。


 何をやっているのだろうか?


 噴水の真似?

 それとも水芸なのか?


 俺は何も言わずに、その様子を眺めていた。


「無反応だと!?バ、バカな!?グ、グアアアアーーー!!!」


 な、なんだ!?


 キュースィーが苦しみだしたぞ!?


 いったい、どういうことなんだ!?


「決まったーーー!!!挑戦者たちが笑死力しょうしりょくのギャグを、無反応で乗り切りました!!!」


「いやあ、これは見事でしたねぇ」


 実況と解説が、変なことを言っているぞ。


 どういう意味なんだ?


 後、俺たちって、挑戦者だったのか?


「笑死族は、笑死力という超能力のようなものを持っています」


「その力を込めたギャグで、人間を心の底から笑わせると、死ぬかもしれないほど大笑いしてしまうんですねぇ。ただし、笑わせられないと、自身がダメージを受けるんですねぇ」


 なんだその捨て身のギャグは!?


 そんなものを使ってまで、人間を笑い死にさせたいのか!?


 というか、普通に攻撃した方が良いのではないか!?


「ぐううっ、お、おのれ、人間どもめ、かくなるうえは……」


 キュースィーが苦しそうに、そうつぶやいた。


 まだ何か手があるのか?


「おおおおおーーーーー!!!!!」


 キュースィーが雄たけびを上げながら、光に包まれた。


 こ、これはまさか第2形態になるのか!?

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