<case : 51> partner - 相棒
暗い場所にいる。辺りには何もなく、ヴェルの足は沼のようにドロドロとした黒い水の中に沈んでいる。
以前も、この場所にいたような気がするが、ひとつだけ違うところがある。
目の前に立っている懐かしい顔、それまでのヴェルが唯一、本当に心を許せた相棒。
「アリシア」
「また来たの? 前は、何とか送り出したのに」
アリシアは、肩まで伸びた金髪を指でくるくると巻いて遊ばせながら言った。その言葉を受けて、前回ここに来た時のことを思い出す。あの時、聞こえてきた声……。
「あれは、お前だったのか」
「ここは、ヴェルの意識の最深部。現実世界のあなたが生死の境をさまよっている間、あなたの意識がここに表出するみたい」
「じゃあ、俺は今、死にそうなんだな」
自身が置かれている現実に直面しても、特に感傷はなかった。
むしろ、ダンジの死の謎から、ドーム中を巻き込む篠塚宗次郎の暴挙を止めたのだ、自分にしてはよくやったと褒めてやりたいくらいだ。代償に死ぬというのなら、それも仕方がない気がしてくる。
「ダメよ。そんなつまらない理由で死なせない。それだと、私が死んだ意味がないじゃない」
ヴェルの想いを見透かしたように、アリシアは目を細めて言った。
「見て」
後ろに気配を感じて、ヴェルが振り返る。
キオン、ミコト長官、冴継。今のヴェルが認める、仲間たちが立っている。そして、その後方にもう一人。
そこに立っているノアは、何も言わずに、微笑みながら頷く。
「行って」
ヴェルの隣で、アリシアが言う。
「アリシア、俺は……」
「私は、永遠の命を持つマキナス。悠久の時を生きた。最後に、あなたというパートナーと出会えて、私は、本当に幸せだった」
それだけ言うと、アリシアは唐突にヴェルの腕を掴み、強引に自分の方に引き寄せる。
「もう来ちゃダメだからね!」
バン! という音がして、ヴェルの周りの黒い水が弾け、視界が暗転する。
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