ゼロから

シヨゥ

第1話

 身の振り方がわからなくなって親父に相談しにやってきた。

「初志貫徹することは、たしかに素晴らしいかもしれない」

 少し考えると親父はそう話し出す。

「一本気で、まじめで、好感が持てるのかもしれない。だが、それは全部仮定の話だ」

「仮定?」

「そう仮定。だって俺は言っただろう。『かもしれない』って」

「ああ」

「100人中100人がそう思うわけじゃないって話だ。『あんなことばかり続けて馬鹿だな』って思っている奴もいるだろう。つまりは一本気に貫いても難癖付ける奴はいるってこと。だから他人にどう思われているかなんて考えるのは無駄だ」

「とすると初志貫徹というのは他人を一切考慮せず自分の内側。心が行うものなのかな?」

「そうだな。そしてその心もその時々で変わっていくものだ」

「変わっていく?」

「そう。判断基準がぶれるんだ。多くを知り、多くを考え、より多面的にものが見られるようになる。するとどうだ。昨日と今日じゃ『なすべき』と思うことが変わってくる」

「なるほど」

「だから、今お前は悩んでいるんだ。今なしていることを決めたあの時とは判断基準が異なっているからな」

「じゃあどうしたらいいんだろう?」

「最後に決めるのはお前だが、そうだな。一旦ゼロで考えてみろ」

「ゼロ?」

「そうゼロ。これまで積み上げてきたものを全て排除した時、どう進むのが今のお前に最適なのかを考えるんだ。経験、経歴、それにしがらみなんて自分の外側が見るもんだ。別にお前が見る必要はない。心がやりたいと思っていることはなんなのか。それを考えてみろ」

「……分かった。最後に1つ」

「なんだ?」

「やることを変えても、親父は否定しないでいてくれるのか?」

「それこそお前が考えることじゃないだろ。自信を持て。何を言われてもお前はお前を生きるんだから」

 その言葉がずんと来る。思考停止ではいられないと熱のようなものが腹の底から湧き上がってくるような感じがした。

「分かった。考えてみるよ」

 鉄は熱いうちに叩け、ではないが今を逃してはまた足踏みをしそうだった。

「がんばれよ」

 親父の声を背中に受けて部屋を後にする。将来を決めるのは自分なのだ。

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ゼロから シヨゥ @Shiyoxu

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