7話:「彼女の特殊な体質(性癖)」
それは、あまりにも唐突だった。自らの手の中にすっぽりと収まる大きさの顔があり、その顔にアイアンクローをかけている。
通常であれば「やめてくれ」という言葉が聞こえてくるはずなのだが、その少女からは似ているが全く別の意味を持った言葉が発せられた。
“やめないで”
一瞬どういうことかと困惑し、思案したのだが、言い間違いをしたんじゃないかという結論にたどり着き、確認のために質問を投げかけてみることにした。
「今なんて言った?」
だが、その結論は彼女の返答によって大きく裏切られた。
「やっ、やめないでください……ハァハァ」
アイアンクローによる痛みで顔が紅潮しているとばかり思っていたが、先ほどの彼女の返答によってその赤みが別の意味を持っていることに気付いた。それは“痛みによる性的興奮”である。
そのことを理解した瞬間にまず感じた感情は驚愕。そしてその次に不快。最後に鳥肌と共に恐れ、恐怖が込み上げてきたのだ。
“なんだ
目の前にいた美少女というイメージが崩壊していき、後に残ったのは化けの皮が剥がれ、自らの性癖を惜しげもなく振りまいてくる発情したメスの姿だった。
彼女の顔の大きさは、平均よりも小さいサイズとなっているため、成人男性である大和の手のサイズだと、目元から口元をすっぽりと覆い隠せることができた。
それによって、彼女の興奮した荒い息が手にかかり、その部分が湿り気を帯びてきていた。
あまりの不気味さと異常さに、性的な不快感を感じた大和は、素早く手を自分の元にさっと戻した。
まるで手を
「うへへへ……へへへへ……」
そこには、完全にメスの顔となった女の顔があった。目じりは下がり、口からは涎を垂らし吐き出される呼吸は、煙を帯びているかのような沸騰した薬罐から噴き出される湯気にも似たようだった。
「もっ、もっとやってください……ご主人様ぁー」
“いつからお前の主人になったんだ?”というツッコミをする余裕もなく、ただ目の前にある不浄の存在を眺めることしかできなかった。
そして、大和の頭に冷静さが戻った時全ての感情が形となって表れた。
「こぉのぉ、バカヤロウがあああああ!!!!」
次の瞬間リナの体は空中に舞い上がりゆっくりと実にゆっくりと飛んでいく。まるでその部屋に
“何が起こったのか?”答えは実にシンプルだ。大和は握り拳を作り、そのまま勢いに任せてアッパーを彼女に放ったのだ。もちろん、大怪我などしないようにある程度の手加減はしてある。
「うがっ!!」
壁に激突したと同時に、リナの間の抜けた声が漏れた。そのまま床へと沈み動かなくなる。だがしかし、すぐさま起き上がりハリセンボンのように膨れ上がった顔でこちらを睨みつけ。
「何するんですか!!」
「だからそれはこっちのセリフだっつってんだろ!!」
「キスがだめなら、やってくれてもいいじゃないですか!!」
「やりたくないものをやらせる気かよ!! 大体こういうのなんて言うか知ってるか? セクハラだよセクハラ、セクシャルハラスメント!!!」
「せくしゃるはらすめんとってどんな呪文ですか? わけのわからないことを言わないでください!!」
「わけわかんねえのは、お前の方だ!!!」
互いが互いの思ったことをぶつけ合い、漫才の掛け合いのようなことを繰り返していたその時。
「ぐううううぅぅぅぅ!!」
大和のお腹の虫が、悲鳴を上げた。そういえば起きてからまだ何も口にしていないのだ。その音を受けて、部屋の中に静寂が広がる。大和とリナは互いに顔を見る、さらに。
「きゅうううううぅぅぅ!!」
大和の腹の虫の音に答えるかのように、リナの腹の虫もかわいらしく鳴った。その瞬間、どちらからともなく声を上げて笑い、笑い終わったあとリナが柔らかい口調で話す。
「そういえば、朝から何も食べてないですもんね。朝食にしましょうか」
「ああ、そうしてくれると助かる……」
その言葉を受けて、小さく頷いたリナは。
「ちょっと待っててください、すぐ用意しますね」
と言いながら、キッチンがあると思しき扉に手をかけ、隣の部屋に消えていった。
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