23 琴葉に-陽向-
拝啓
この手紙は、僕が亡くなった後に渡されていると思う。
つまりはまあ、遺書みたいなものだよね。
ここに書くことが恐らく琴葉に伝える最後の言葉になるだろうから、逆に何を言えばいいか分からない。
なんか業務連絡みたいになっちゃうけど、これだけは絶対に伝えとかなきゃいけないなっていうことは一つある。
絵のことだ。
僕が今までスケッチブックとか色んなものに描いてきた絵は全部、琴葉にあげる。
絵を全部あげるということはつまり僕の人生の全部を琴葉に託すということだから、大切にしてくれると嬉しいな。
まあ琴葉なら言うまでもなく大切にしてくれると思うけど。
バンドの活動に使うも良し、飾ったりして自分だけのものにしても良し。
その代わりに、できるだけ僕のことは忘れないでね。
第一の人生は短かった分、記憶として生きる第二の人生は出来るだけ長生きしたいんだ。
我儘言ってごめんね。
まあ最後のわがままなんだからそれくらい許してくれたって良いよね?
振り返ってみれば、琴葉と過ごした一年間は、君に頼ってばかりだった。
一人でいた僕を救ってくれたのも、この世界を色づけてくれたのも、友達と過ごす楽しさを教えてくれたのも、音楽の良さを教えてくれたのも、僕の人生において絵を描くこと以外の幸せを教えてくれたのも全部琴葉だったよ。
本当にありがとう。
それなのに八つ当たりして琴葉を怒らせたこともあったね。
あの時の平手打ちは本当に痛かった。
後にも先にもあんなにちゃんと叩かれたことは無かったよ。
でも改めて言っておきたい。
あの時は本当にごめん。
最後だから言っておくけど、僕は琴葉のことを本当に大切に思っていたよ。
たった一年間の付き合いだったけど、人間関係に時間なんて関係ないんだって思えるくらい、君の事が大切だった。
いつか別れが来ることをわかっておきながら、隣にいてくれることを当たり前に思ってた。
それは僕が犯した大きな過ちの一つかもしれない。
近くにいる人との接し方がわからなくて、冷めた態度を取ってたときもあったかもしれないけど、決して嫌いだった訳じゃないから許してね。
大体言いたいことは言えた気がする。
言い忘れたことがあったら、どこか分かるところにでも書いておくよ。
琴葉がこの先、ずっと幸せでいられることを願ってる。
じゃあね、数十年後にまた会おう。
敬具
森本陽向
葵琴葉様
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