15-2 思い-琴葉-

 布団に入り、今日あった出来事を振り返る。思い返してみると、悔しさと恥ずかしさと嬉しさと愛しさと、数え切れないほどの感情が頭の中をぐるぐると回る。自分で感情の整理がつかない。


 今日は何があったかな。短いようで長い一日だった。

 そもそもは昨日陽向から来たLINEが始まりだった。絵のコンテストの結果が明日発表される、と書いてあった。昨日は学校にも普通に登校していたが、放課後に部活もあったりで彼と話す時間はあまりなかったのだ。

 その連絡が来てから私までドキドキして、でもなんとかなると信じて眠りについた。

 早めに寝たからか目覚めは良くて、ゆっくりと支度をして登校した。

 学校に向かう彼の顔はやっぱり緊張していて、テンションがどこか普通で無かった。今思えばあの時から既に心の状態が普通でなくなってしまっていたのかもしれない。

 それでもまあ、あんな大きな発表があるというのだから仕方がない。私でさえひどく緊張していたのだから。


 そして一日はすぐに過ぎて、放課後になって、美術室に集まった。あの時の緊迫した空気は忘れることが出来ない。皆がその結果が出るのを、固唾を飲んで見守っていた。

 そして、結果が発表されて、でもそこに彼の名前はなくて、陽向は私に当たるしかなくなってしまって。。

 あの時、なんて言っていたっけな。これだから他人に絵を見せたくないとか言っていたか。それがあの時の陽向にとっては本心でも、今は変わってくれているといい。


 そう思った時、ふと頭に一つの希望が浮かんだ。ん、待てよ。あの時の陽向は確か。

 時計を確認する。その針は既に十時を回ろうとしているが、彼は起きているだろうか。迷惑かもしれないが、どうしても今確認したい。

 勢いよく起き上がると枕元のスマホを手に取り、彼のアイコンをタップして電話をかける。


 コールが一回、二回、三回、


『もしもし?』

 出た。よかった、まだ起きていたのか。


「もしもし、ごめんね、夜遅くに。もう寝ようとしてた?」


『ううん、まだ全然。ダラダラ勉強してた』


「状態は?大丈夫なの?」


『うん、もう大丈夫。琴葉のお陰でね。ありがとう』

 やっぱりだ。やっぱり——


『どうしたの?それを心配して連絡くれただけ?』


「いや、そうじゃないんだけど、えっと、ちょっと私の昔話してもいいかな」


『うん、』


「これは、小学校同じ人なら結構知ってる人も多くて、今は全然そんな感じないと思うだけど実はね、私も昔は吃音持ちだったんだよね」


『えっ?本当に』


「うん、だから初めて陽向と話した時すぐに気付いた。吃音を持ってるから人と話したがらないんだって」


『うん、本当にその通りで、小学校の頃、吃音のせいでいじめられてたことがあるんだよね。それがトラウマで、人と話さないことに決めたんだ。知ってる人がいない中学に来てもそれを引きずってたんだけど、今は琴葉のおかげで前向きになれてる』


「やっぱりそうだったんだ。私は小学校の3、4年頃に治って、周りも理解ある人が多かったから助かってたけど、そうじゃなければ心折れてたと思う。国語の授業の音読の時とか、前に出る時に周りから注目されちゃって恥ずかしいし耐えられないよね」


『それ分かる。小学校とか特にそういうの多いからね。でも琴葉が吃音持ってたのは意外だったな』


「うん、私も陽向と会うまではすっかり忘れて生きてたし、その時助けてくれてた一果と朱莉もそんなこと無かったみたいに接してくれるしね。それでね、私の吃りが治ったのって音楽のおかげだったんだよね。色んな治療法があって、その中に歌で治すっていうのもあるのは知ってる?」


『うん、僕も試してみたけどダメだったな』


「私も最初は疑心暗鬼で治療の為に音楽を聴き始めて、歌を歌い始めたんだけどいつの間にか音楽に心をまもってもらってたし、歌を歌うのが楽しくて仕方なくなってたんだよね」


『そうだったんだ。吃音のおかげで琴葉は今歌えてるんだね。悪いことだけじゃないのか』


「うん、そうだね。それでね、陽向、もう気づいてるかな?」


『え?何に?』



「——陽向、さっきからずっと、詰まらずに言葉が降りて来てるよ」

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