11-2 一人のために描いた夢を-琴葉-
陽向の絵が最終選考に残り、私以外の人たち、しかもその道を極める大人からも良い評価を受けたことが嬉しかった。授業中もふとそのことを思い出してはニヤけてしまう。このままいけば本当に賞を取れるのではないかと思っている。
本当ならば今日は彼を祝福する歌でもうたいたいところなのだが、九月ということで歌う曲はもう決めていた。
放課後に音楽室に行くのは久しぶりなので、少しソワソワする。この夏休み中に沢山のことが変わった。今日は一果と朱莉も来たいと言っていたから、それを許して三人で音楽室へと向かう。陽向とも一緒に行きたいと思ったが、彼はHRが終わると同時に美術室に行ってしまう。何故かそこは数ヶ月前と変わらない。
音楽室に着くと夏休みの思い出や、部活のことなどを当てもなく話していううちに陽向がやってきた。
「ちょっとだけ絵の続き進めてきた」
そういって清々しそうに笑う。やはり今日の彼は機嫌が良さそうだ。まあ朝にあんな嬉しい知らせがあったというので真っ当だとも思うが。
「やっほー、待ってたよ」
彼が来ると同時に会話を辞め、歌う準備をする。
「今日は何歌うの?」
「んっと、九月に入ったし、セプテンバーと言ったらってやつだよ、ね?」
「うん、相変わらず森本はあんまり音楽聞かないだろうから知ってるかどうかはわからないけど。」
「へえ、たのしみだな」
「じゃあ、行くよ?」
ジャッジャッ ジャッジャッ ジャッジャッ ジャー
ギターのイントロに合わせて三人で首を横に振る。
『一人のために描いた夢を
誰かに使いまわした
そんなこともあるさと笑える僕も
きっとセプテンバー
『夏』ってだけでキラキラしてた
あの気持ちが好きなの
「もう少しだけここにいさせて」
そんな顔で僕見るの
でも君が笑える理由なら
僕が見つけてきてあげる
こんな二人を繋ぐのは
きっとなんでもないセプテンバー』
もう終わってしまったこの夏の思い出を振り返りながら感傷に浸って歌う。部活も忙しくあまり遊ぶ機会もなかったが、その中でも濃く、かけがえのない思い出ができた大切な夏だった。
『OH セプテンバー OH セプテンバー
OH セプテンバー OH セプテンバー』
コールアンドレスポンスのパートで一果と朱莉が声を合わせ歌ってくれる。
『夢が語りつくした希望を
僕は拾うよ 君は見てるの?
さぁ今ならば この声ならば
届く気がしたんだ』
歌詞に思わず陽向を重ねた。
『OH セプテンバー OH セプテンバー
OH セプテンバー OH セプテンバー』
二人が声を合わせてくれる。
「森本も、歌お?」
一果が陽向に声をかけてくれる。陽向も遠慮がちに、だけど楽しそうに歌ってくれる。
『OH セプテンバー OH セプテンバー
OH セプテンバー OH セプテンバー』
この瞬間を終わらせたくなくて、いつまでも歌い続ける。その声が教室を響くその残響すら心地良い。
この曲を歌い終わった瞬間に、夏が終わってしまう予感がした。それでも歌い進めなければならない。ラスサビの部分を三人で大合唱する。陽向は頭を揺らしながら目を瞑って耳をそば立てる。
『こんな僕だけど そう君となら
何もないけれど そう今ならば
この声ならば そう君となら
響く気がしたんだ
あぁ この
あぁ この
ジャッジャッ ジャッジャッ ジャッジャッ ジャー、、
アウトロの余韻を楽しむ。もうすぐ最後の音が消える。
♪
夏が終わった。もうすぐ秋が来て、そして気がつけば冬が来て、あっという間に春が来る。
私たちが三年生になる頃、変わらずに歌をうたえているのだろうか、それは分からないが今を大切に生きたい。そんなことを思った。
【一人のために描いた夢を】
Inspired by セプテンバーさん(RADWIMPS)
作詞:野田洋次郎
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