三枚目 紅の葉が舞い降りる
11-1 一人のために描いた夢を-陽向-
夏休みが明け、その直後にあった定期テストも終わった。休み後半に少しずつコツコツと勉強したこともあり、焦る必要もなくまずまずの成績だった。
今日の朝はいつもよりも目覚めが早かった。寝起きだが頭は冴え渡っている。そして心臓の鼓動はありえない程速い。
実は今日、夏休みに入る前に応募した『新緑と私の町』がテーマのコンテストの中間発表が新聞に掲載されるのだ。
着替えもしないまま家の外にあるポストに新聞を取りに行く。この紙の束の中に結果が書かれていると思うとドキドキが止まらない。新聞を持って部屋に戻り、中からチラシを抜いて正座で新聞に向かい合う。どうか名前がありますように、と心の中で手を合わせつつ一枚ずつページを捲る。
あった、中間発表の欄だ。ページ中央下に小さく囲われた枠の中に並んだ数十のタイトルと名前が目に入った。一度空を仰ぎ、心を落ち着ける。
よし。覚悟を決めて視線を文字が敷き詰められた紙に落とす。
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色 光 夏 青 花 公
彩 と を の ・ 園
・ 緑 感 間 甘 ・
中 ・ じ で 粕 長
原 井 て ・ 創 田
凛 上 ・ 森 太 愛
和 後 本 里
藤 陽
凪 向
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あった。どうしても信じきれず、もう一度紙面を見る。やはりそこには自分の名前がある。
周りの人は褒めてくれていたものの、正直自信は無かった。だからその枠の中に自分の名前があることに嬉しさや驚きなどの気持ちがごちゃ混ぜになりふわふわとした気分だ。
興奮は醒めないが、ひとまずLINEで絵を教えてくれた祖父、早くから仕事に出た父親、さらに琴葉を含む五人のグループに結果を報告する。
浮ついた気持ちを抑えつつ、ゆっくりと学校に行く支度を始めた。
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校門前の坂を登っていると、琴葉たちが後ろから叫ぶように僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「陽向〜!おめでとう!!」
琴葉が輝くような笑顔で坂を登ってくる。
「ありがとう、全部琴葉のおかげだよ。本当に嬉しい」
「いや、全部陽向の実力だよ。やっぱり陽向の絵は人の気持ちを動かすことのできる凄いものなんだって、それが証明されたみたいで私も嬉しい」
「あ、ありがとう。そこまで言われると照れるけど、、」
「おいおい〜、私たちのことも忘れないでよね?ひとまずおめでとう」
琴葉の後ろから早坂と小林も笑顔で祝福してくれた。
「二人もありがとう。いつも褒めてくれるから自信になるよ」
「うんうん、でもまだ最終選考が残ってるからね。喜ぶのはまだ早いよ〜」
「そんなん森本なら大丈夫だろ?ねえ、琴葉?」
「うん、もちろんだよ。絶っ対賞取れる。私には分かるよ!」
「あ、ありがとう」
相変わらずここまでの熱量で来られると戸惑ってしまいありがとう意外の言葉がボキャブラリーから消え去ってしまうが、こんなに嬉しいことはない。
数ヶ月前までこんなに沢山の人に祝福されることなんてなく、なんだか他人の人生を歩んでいるような気がする。このままいけば本当に賞が取れてしまうかもしれない。少しだけ芽生えた期待を胸の中で育てつつ教室に入る。
「おはよ、陽向!おめでとう!」
一樹が教室に入り僕の姿を見ると同時に笑顔で祝ってくれた。
「なに、森本がどうしたの?」
「いや〜ちょっとね。陽向、言っていい?」
ここで言わないというのもバツが悪いので小さく頷く。
「陽向が絵のコンテストで一次選考通ったんだって!三千分の二十くらいだったかな。すごくない?」
「へ〜、すごいねそんないい絵を描くんだ。おめでとう。」
普段は滅多に話さない男子バスケ部の子からの祝福に、あんまり広めるなよ一樹!と思いながらも会釈をする。いつも一樹と一緒にいる彼とは必要な時以外関わることは無かったけれど、やはりいい人そうだ。
いつもより明るい心持ちで席に着く。更に今日は木曜なので放課後の時間を琴葉と過ごせるということもあり、こんなに学校が楽しくなる物なのかという程、幸せに満ちた一日になりそうな予感があった。
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