第16話

 …以来、私は学校に行けなくなった。


 彼女は…生きていた。


 命「だけ」は助かった。


 …意識は回復しなかった。


 何日経っても、何か月経っても…


 もう卒業シーズンなのに、彼女は目を覚まさない。


 学校も、彼女が身投げしてしまったことで、卒業式どころじゃなくなっていた。


 私は、部屋に引きこもった。


 何とか開かれた卒業式には出なかった。


 私は、隣町の中学校に行くことになったが…


 どうしても家から出ることができなかった。


 彼女のお見舞いにも行けなかった。


 …何もできない。


 部屋にいることさえ辛くなって、生きることさえ辛くなって…


 私も傷つけてしまった…自分の手首を。


「もう生きていけないよ…もう生きていけないよ…」


 そう何度もつぶやきながら、傷つけていった。


 ある日。


「加奈!やめなさい!」


 お母さんに気付かれた。


 すごく怒られた。


 でも、どんな怒鳴り声も、私の耳には入ってこなかった。


 周りが入学シーズンになった頃だった。


 お母さんは私を連れて病院に行った。


「少し、病院の先生とお話してみない?」


 お母さんは、優しい声でそう言った。


「…うん」


 力のない声しか出せない私。


 先生って、誰だろう?


 お母さんが向かったのは、待合室でも診察室でもなく、ある小さな部屋だった。


 …コンコン。


 お母さんがノックしてから、ドアを開けた。


「はい、どうぞ」


 そこにいたのは、眼鏡をかけた茶髪の女の人。


 この人が先生のようだ。


「初めましてー」


 ふわふわとした感じの先生。


「加奈ちゃんって言うんだよね?こんにちは、私はワンファーシューって言いまーす」


「え、えっと…」


 名前が上手く聞き取れず、どもってしまった。


 …ワンファーシュー…?


 先生は両手でネームプレートを持って、私に見せた。


 ネームプレートには『王 花淑』と書かれていた。


「うーん…覚えづらいよね。私、日本で生まれたんだけど、両親が中国の出身でさ。だから、こんな名前なの。難しいから、好きな風に呼んでくれて良いよ」


「は、はい…」


 最初は、なんて呼べば良いか分からなかったけど、お母さんが「先生」と呼んでいたから、私も気づけば「先生」と呼んでいた。


 気が強そうで、どこか優しくてふわふわした先生。


 先生は、心理カウンセラーなのだそう。


 でも、ユニークな人で「変わってる」と言われることが多いんだとか。


 もちろん、良い意味で。


 …先生と私は、意外と気が合った。


 出会って、一週間たつ頃には、一緒にカフェ行ったり、買い物行ったりしていた。


 一緒に勉強もしたっけ。


 …学校にも行けず、家からも出れなかった私を救ってくれた先生。


 私は、そんな先生が大好きだった。

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