第15話

 二年前。


 私のクラスには、いじめっ子がいた。


 私や私の友達はもちろん、たくさんの人がいじめられていて、ひどく傷つき、困っていた。


 担任の先生は、何度も注意したがいじめは止まらない。


 私たちは、もう諦めていた。


 延々と続くいじめ。


 人生のすべてが嫌になっても、


 この毎日に、この世界に絶望しても、


 続く、いじめ。


 いじめっ子は、それに気づかずにいじめ続ける。むしろ、楽しそうに。


 いじめのある毎日が当たり前となっていた。




 …ある日のことだった。


 私の親友がベランダから飛び降りた。


 三階にある、自分たちの教室のベランダから。


 あの六年二組の教室から。


 …昔からいじめられていて、よくリストカットをしてしまっていた。


 私は、彼女の相談に乗ることしかできなかった。


 いじめっ子を改心させるなんて、私には夢のまた夢。


 何もできなかった。


 彼女は、小説家を目指して、いくつもの小説を書き上げた。


 私は、彼女の小説が好きだったが、小説の話をするたび、いじめっ子にいじめのネタにされた。


 彼女も私もいじめっ子から「根暗女」とよく言われていた。


 彼女は、もう限界だった。


 そして…


「夏花ちゃん…待って!」


「ばいばい、ごめんね。加奈ちゃん」


「どうして、そんなことするの!?

 疲れたからって、自ら自分の人生を終わらせなくたって…!」


 涙をにじませる彼女は、ゆっくりと話し始めた。


「小説が大好きだった。たくさん書きたかった。小説家になりたかった」


「私の小説で誰かを助けたかった」


「でも、もう疲れちゃった」


「小説を書こうとすれば自分の首を絞めるだけ」


「私と一緒にいると、加奈ちゃんにも迷惑かけちゃうよ。消えるのは、私だけで十分だよ…」


 本当に消えてしまいそうな彼女の元に駆け寄ろうとした。


「だめ!夏花ちゃん!」


 ー待って。行かないで、行かないで、

 逝かないで、お願いだからー




「さようなら、加奈ちゃん。ごめんね」




 彼女は、私の目の前から消えた。


 今、私の目の前には、ベランダの柵。


 それ以外は、視界に入らない。


 ベランダの向こうの校舎も景色も…


 パリンッ!!!


 後ろでガラスの割れる音がした。


 彼女が飛び降りたのを見た誰かが暴れ出した。


 椅子を持ち上げ、窓にたたきつけた。


 精神が崩壊していく。あちらこちらで。



 …そよ風が吹く。


 遠くからのサイレンの音が聞こえてくる。


 私は、ベランダの下を覗けない。


 ベランダの下に行けない。


 ただ、立ち尽くすしかなかった。

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