第5話

 私の部屋は、花柄の壁紙でパステルカラーのベッドが置かれている。


 窓際には、お気に入りの人形を置いていたのだが…


 …私が入った部屋は、それには随分遠いものだった。


 部屋一面に、何かの書類や写真が大量にばらまかれていて、フローリングもベッドの模様もほぼ見えない。


 壁には、右上に赤い数字が書かれた紙がたくさん貼りつけられていた。


 窓際には、ノートが1冊置いてある。人形の姿は無い。


 部屋の中は、家の中でも一番暗い。


 私の部屋じゃないみたい。…いや、私の部屋じゃない。


「な…なに…これ…」


 ドアの近くの書類や写真を拾い上げてみた。


「これ…相談所の案内?」


「こっちは、フリースクールの案内…」


 …この書類知ってる気がする。


 確か…えっと…


 私…小学校の時から学校いけなかったんだっけ。


 それで、相談所に行ったり、フリースクール探したり…


 写真の方は…


「…誰だろう…この人」


 その写真には、私とその隣にもう一人写っていた。


 茶髪で眼鏡をかけた若い女性。


 私と一緒に写っているのだから、私の知り合いかもしれない。


 でも、誰だか思い出せない。


 白衣来てるし、ネームプレートもつけている。


 名前は…よく見えない。


 だけど、医療従事者の方のようだ。


 私が…学校に行けなくて、医療従事者の方にお世話になった?


 …とりあえず、壁に貼ってある紙は何なのだろう。


 部屋に入り、壁に近づいてみる。


「これは…テスト?」


 ことわざや漢字、分数に概算、気温の変化や植物の育ち方、標高の高い地域や海外に

 ついてなど…小学生の頃のテストが貼られていた。


 赤い数字は点数だった。


 国語は100点が多いが、それ以外は…あまり良い結果とは言えない。


 うーん…それにしても、何故、私の部屋がこんな風に?


 私は、小学校の頃学校に行けなくなって…


 ―もう生きていけないよ…


 ―加奈!やめなさい!!!


「きゃっ!」


 急に怒鳴ったような声が聞こえてきて…


 私は思わずうずくまった。


「加奈…私のこと、なのかな…」


 何だろう、どこかで聞いた声だ。


 この会話…覚えていないけど、誰かが私に怒っているようだ。


 私、何かしたのかな…


 この声…この怒鳴り方って…


「もしかして…お母さん…?」


 そう声に出した時だった。


 シュゥゥ…


「な、なに…!?」


 謎の物体が現れた。


 赤くて、どす黒くて、砂嵐のように点滅する物体。


 あの街に転がっていた物体が…


 物体はもぞもぞ動き出す。


 そして、人のような形になった。


 腕は刃物のように…


 顔は、耳元まで避けていて、赤い牙が…


 …私にじわじわ近づき、腕を振り上げる。


 私を…襲うつもりだ!


「嫌…!」


 体が勝手に動き出していた。


 私は、ベランダに飛び出した。


 屋根の上に降りれば、ちょうど地面に着地できそうな高さになる。


 意を決して、ベランダの手すりを乗り越えた。

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