行方不明の男性、捜索に協力した行方不明の男性を探した行方不明の男性は行方不明の男性だった

昆布 海胆

行方不明の男性、捜索に協力した行方不明の男性を探した行方不明の男性は行方不明の男性だった

「主人を宜しくお願いします」

「最善を尽くします」


俺はこの町の衛兵トルク。

今日は宿屋の主人であるナフレ氏が行方不明になったとの通報を受けてやって来ていた。

昨夜ナフレ氏は、酒を飲んだ後フラリと出掛け、町はずれの森に入ったのを最後に目撃されていない。

俺達衛兵3人は町はずれの森で遭難したとされるナフレ氏を捜索しに行く事となった。


「名前はナフレ、40歳の男性で茶色い肌着を着ているとの事だ」

「酔って何処かの木の根元で寝ている可能性もあるな・・・」


奥さんから情報を得た俺は同僚に男性の事を伝え探索を開始した。

昨夜の冷え込みを考えると最悪の事態も考慮に入れていた。


「一応野生動物には気を付けろよ」

「あぁ、脅かし用の炸裂玉は幾つか持ってきているだろ?」

「でもあれは殺傷能力が低いからなぁ~」


そんな雑談を交わしながら俺達は獣道を進む。

一応この奥に在る池は町の観光名所にもなっているので人の行き来が出来る程度の獣道は存在している。

だが相手は酔っ払い、道なき道を突き進まれれば捜索は困難になる事も十分に考えられる・・・

そんな考えを巡らせながら俺達は一応池までの獣道を捜索した。だが・・・


「抜けましたね」

「あぁ、池までには居なかったな・・・」

「どうします?左右に分かれますか?」


開けた場所には綺麗な泉が一つ、中に入水しているかとも一応考えたが中まで澄んだ池の中は透き通り底まで見えていた。

観光名所となるだけあって綺麗な池なのが幸いし、池の中を捜索する事は必要無いのに安堵しつつも今後の事を考える・・・


「二重遭難を避ける為に出来れば2名ずつで行動したいところだな・・・」

「そうですね・・・ってあれ?」


その池の周囲を歩く男性が一人居た。

肩に手斧を乗せて歩く男性は慣れた手つきで落ちている貝を拾っては背中の籠に入れていた。

俺達は何か行方不明の男性の情報が無いか尋ねる事にした。


「すみません」

「ん?衛兵さん達じゃないですか?どうかしたんですか?」

「実は昨夜から男性が行方不明になっていまして・・・」

「えぇ?!本当ですか?!」

「はい、現在調査をしているのですが・・・」

「それは大変だ!自分はここのガイドの仕事もしている者なので是非協力させて頂きますよ」

「ををっ!?それはありがたい」


こうしてこの男性を含め俺達は2名ずつ左右の森の中へ調査に入った。






1時間ほどして池を中心に森を半周した俺達、池の反対側に到達した事で片割れの2名と合流する事が出来た。

しかし・・・


「どうだった?」

「駄目ですね、途中ウサギが出てきたくらいでそれらしき男性は・・・」

「仕方ない、一応このままもう半周して道で合流しよう」


こうして俺達はもう1時間かけて反対側を探した。

だが結局ナウレ氏を発見には至らず、探索を打ち切り町に戻る事となった。


「ガイドさんのお陰でかなりの広範囲探す事が出来たが結局は・・・」

「力になれず申し訳ない」

「いえいえ、ガイドさんのお陰でこの森には居ない事が分かりましたから」


そう、この森の中に入って行ったという目撃証言が間違いだった可能性もあるのだ。

それが確認できただけでも違うだろう、別の場所を探す事が出来るのだから、もしかしたら既に町の方で発見されているかもしれない。

俺達は森を抜け奥さんに見付からなかったと報告をする為に宿屋へ向かう事にした。

町の門番が敬礼を行い俺がそれを返す。

目でどうだったか尋ねられているのを理解した俺は首を横に振る。


「そうですか、何処に行ったんでしょうねナフレさん」

「はい?」

「「「えっ?」」」


同行していたガイドが返事を行い共に行動していた衛兵3人で同時に声を上げる。

その視線にガイドの男は目を丸くして恐る恐る訪ねてきた。


「あ、あの・・・一緒に探していた男性って・・・」

「宿屋の主人、ナフレ氏・・・なんだが・・・」

「それ・・・自分です・・・」








「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?!?!?!?!?」」」」


後にこの事件は『行方不明の男性、捜索に協力した行方不明の男性を探した行方不明の男性は行方不明の男性だった』事件として後世に残る事となる・・・

2時間かけて男性を捜索していている衛兵が偶然にも捜索対象の名を一度も呼ばなかった事、ナフレ氏が酒を飲んでから宿の料理で使う貝を拾いに出かけた男性が手に持っていた手斧と上着を目撃者が気付かなかった事、貝を拾う用の籠が池の近くに用意されていた事・・・

そして、この事件の話題が広まり観光名所である池に多数の観光客が訪れる様になり町が発展する事になるなんて誰も思わなかった・・・


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行方不明の男性、捜索に協力した行方不明の男性を探した行方不明の男性は行方不明の男性だった 昆布 海胆 @onimix

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