序 ふたつ *世間話*


「いやだ、信じられませんわ。そんな話」

 女は、女学校時代の友人を前に、思わず笑ってしまった。

「そんな占いごときで、結婚式をやめる?ご両親が嘆かれますわよ」

「ええ、でも……」

 友人は、それでもどこか思いつめたような顔をした。

「私が想う殿方のことも……占って欲しくて……」

「呆れた」

 女はため息を吐いた。

「貴女の婚約者は、とても高貴な方なのよ?何が不満なのかしら」

「不満ではないの。不安」

「え?」

「私……小さい頃の大病で……子を産める力がないかもしれないの。あの占い師、それも見抜いていたのよ」

「……」

「高貴な方なら、なおさら……お世継ぎを望まれるのでしょう?私、結婚しても、すぐに追い出されてしまうかもしれないわ」

 女は、友人がすすり泣くさまを見て、自分を責めた。

「行きましょう、卜占屋のところに」

「え?」

「この大正の世は、女が自分で恋のお相手を選べる時代なのです。泣いていたらいけないわ。行きましょう」


 女は、友人の手を引いて、大通りを進んだ。


 ――それにしても、身体のことまでわかるなんて、その占い師、本当は医者じゃないのかしらね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る