月とケブリ【おもて】
ヒロヤ
序 ひとつ *万世新聞*
万世新聞
【人生の歩き方 第二〇八回】
お悩み相談者 河原町在住 箱入り娘
***
拝啓、記者様。
このたびは、初めて筆をとります。
居ても立ってもいられないとは、まさにこのことで御座います。
わたくし、実は縁談が決まっている身なのですが、先日、神社の夏祭りの際、最近評判の占い屋に手相を見ていただきました。
箱入りで育ちましたわたくしにとって、結婚は大なる問題、幸せが約束されているか知りたかったので御座います。
ところが、その占い屋が申しますには、式の日取りをずらさないと大変なことになるとのことでした。
しかも驚いたことに、占い屋はわたくしが本当に心を寄せるのは別の人間だろうとまで言うのです。
恐ろしいのは、わたくしは一言も片恋のことなど話していないのです。
けれども、私が想いを募らせている御方について、何やら助言をしてくれるともいうのです。ただ、もう、わたくしは怖くなってしまひ、その日は逃げてしまいました。
まるで魔術にかけられたような気分で御座います。
ああ、どうしたら良いのでせう。
記者様、何卒お知恵をお貸しくださいませ。
***
回答記者より
まずは、しっかりと気をお持ちなさい。
昨今、出鱈目なことを抜かしては、人々を騙し、陥れる輩が増えているのはご存知ですか。
それを詐欺といいます。
貴女のような深窓の令嬢など、もっとも狙われやすいのですから、日ごろから物事をしっかりと考え、見極める力を養わなければなりません。
そもそも、占いなどといった何の根拠もないことを、信じてしまうから魔術にかけられたと思ってしまうのです。今や、世界文明の中心となった我が国において、そのようなものは存在するわけがありません。
それよりも、貴女の精神不安定がお相手の殿方に悪影響を与え、本当に縁談が流れてしまう恐れだってあるのです。
口先だけの出鱈目な占い屋など、いっそのこと、この記者が糾弾してやりませう。
いいですか、しっかりと気をお持ちになって、きっと、お幸せになるのです。
貴女が、別に心を寄せる殿方については、当記者は何も申し上げることはありませぬ。
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