第4話 欲望の回転ずし
ちょっと魚でも摘まみながら酒をやりたい……。
ふと思い立ってしまうと、居ても立ってもいられなくなり、私は家を飛び出して回転ずしを目指すこととした。
本当はどこかのすし屋に寄って刺身でも切ってもらってから、何貫かいただいて帰るのがいいのだろうが、そのような懐具合であることなぞ年に何度あることか。
夢物語をしても始まらず、そうなれば足は自然と回転ずしに向けるしかなくなってしまう。
個人的には「はま寿司」が好きなのであるが、車で行く必要があるためまず除外される。
となれば少し歩くかと考えるうちに、目の前に「くら寿司」の堂々たる看板が現れ手招きしているではないか。
あまり覗ったことはないが、ここは冷酒に魚をいくつか摘まめればよいから、ちょいと寄らせてもらおう。
階段を足取り軽く上る。
それにしても、会社が休みとはいえ真昼間から飲める場所があるというのは何とも幸せなことだ。
「いらっしゃいませ、こちらの席へどうぞ」
「どうもありがとうございます。さてと……」
手を拭いてからまずは酒を、と探してみるがどこにもない。
ビールに何やら柑橘の酒はあるものの、日本酒の「酒」の字も見当たらない。
しまったと後悔したところで始まらず、致し方なしに赤身やら鯛やらを摘まみながらビールで受けていく。
うん、この手軽さでこの味は良い。
ただ、いかんせん日本酒がなくては生殺しだ。
向こうの席ではしゃぐ金髪の若者たちが何とも輝かしく、私にとっては何とも遠いものに感じられた。
千円ほどの勘定で店を出てうち笑い、少し沁みる北風に身を震わせた。
なに、たまたまこの店が日本酒を扱わないだけかもしれないと思いつつ、酒がなくては楽しめぬ己が悲しさを再び笑った。
いや、この程度で泣いていては呑兵衛の名が廃る。
良い肴とビールだけでもいただけたのは御の字であり、あとは別の河岸で楽しめばよい。
思えば近くに別の回転ずしがあったはずである、残った欲望はそこで晴らせばよい。
一念発起した私は意気揚々と九州の回転ずしやである「じじや」に飛び込む。
タッチパネルに堂々と表示された日本酒に一礼し、私は力いっぱい操作する。
そして、至った酒と鉄火巻きをいただきながら、これが勝利の美酒かと顔のゆるみが抑えられなくなってしまった。
しかし、ここでふと汁物に目をやると、あら汁などが堂々と並び、あおさの味噌汁がいずこにもない。
なるほど、飲んで膨らんだ欲求に全て応えられる店などないのだなと苦笑してから、私はもう一本燗をつけてもらった。
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