第3話 フロンティア・スピリッツ
今宵も飲みに出る時間がやってまいりました。
休みの日だからこそ早めに飲んで、布団にもぐり、よい休み明けを迎えなければなりません。
まあ、いけないのは分かっていても深酒してしまうこともありますが、それはご愛嬌ということでひとつ。
さて、誰に言っているのかもわからない前説をしたところで、今日は気分が乗っているから新規開拓に勤しもう。
近頃は街に見つけた好みの店に繰り出すことが多くなってしまっていたが、人間、守りに入ってしまってはお終いである。
攻めの姿勢は生きていくうえで欠かせない――と言っても酒を飲む話しかしていないわけであるのだが。
さあ、家の外に出たところから勝負は始まっているも同然なのだが、まずネットの評判を調べないようにしなければならない。
他の人と連れ立っての宴会であればまだしも、気楽な一人飲みにおいてそのようなことをしていては自分の勘が弱ってしまう。
次の旅に備えて常に磨いておかなければ、楽しみがなくなってしまうではないか。
そこでスマホはポケットに仕舞い込み、車の流れだけを見て頭を空にする。
よくお世話になる牛丼屋が目に入るが、今日はその程度でなびくことはない。
早々に一本裏の道に入り、あたりを物色する。
初めに飛び込んでくるのは焼き鳥屋だが、少々門構えが明るいのが気にかかる。
悪くはないのだが、若々しい店主の創作料理ラッシュが続くと今晩は受けられそうもないから控えておこう。
隣の魚料理のお店は逆に威風堂々としているのに対してプレハブというのが気にかかってしまう。
料理に手をかけていればよいのだが、いったん置いておこう。
中華料理のお店は値段が勝負から腰を引かせてしまう。
いや、美味しいのかもしれないが、店構えからは外れると大きそうだという情報が頻りに放たれている。
こっちも一旦置いておこう。
そうこうするうちに、もう少しで辺りを一周するところまで来てしまった。
やはり海鮮のお店か、と思ったところで何とも感じの良い飲み屋が目に飛び込んできた。
屋号が漢字二文字、年季を感じさせる佇まいと暖簾のタッグがなんと頼もしいことか。
うっすらと見える中には、ジャンパーを着た年輩の方の姿。
なるほど、きっと常連だな。
これなら安心できそうだと、私は嬉々として戸を開けた。
木目のカウンターの一角、暖かな明かりの下、アサヒの中瓶を注ぐ。
運ばれてきたカキフライに、私はソースをどぷりとかけた。
「お客さん、二件目ですけど、よく飲まれますねぇ」
「ああ、いえ。前のところではそれほど飲んでおりませんので」
結局、飛び込んだ店では生中を一杯空けてから、私は這う這うの体で飛び出してしまっていた。
出されたものは特に可もなく不可もなくであったのだが、どうにも漂う饐えた匂いが気にかかり、酒どころではなくなったのである。
いやにビールが苦く感じるのは、単に情けなさからだろうか。
失敗は成功の母と自分に言い聞かせ、滲み出るカキの旨味に感謝した。
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