第5話 鳳凰の冠

天子松柏は雄月の皇胤にして泉名元年、宝祚し給う。


誤りに気づき、筆を止める。

――天子たるは宝祚ののち。

小刀をもって竹簡を薄く削る。

皇胤といえど、登極せねば人である。

人として過つ余地が、まだあるということだ。

しかし天子が道を誤れば、咎めるのは天のみ。

それすなわち国土と民を損なうということだ。

「まこと、宝祚とはなんであろうな。まるで……」

呪いのようではないか、という言葉を、私は呑んだ。

墨の削がれた竹簡に書き直し、巻いて書庫に収める。

人一倍生真面目だった従弟の、今日の勢威を思い浮かべながら。

――私は君の足跡を余さず書き記し、この書庫を守りましょう。

いずれ、それこそが真の宝となりましょうから。


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