第79話 最終回

本日3回目の更新です。最終回です。

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○●木下真理○●



 ベンチに座りながら、梨花ちゃんと一緒に函館の夜景を眺めていた。

 

 綺麗だな。


 100万ドルの夜景だ


 100万ドルっていうのは、いつの時代のドルなんだろ。


 ここからだと、高さを感じないからあんまり怖くないな。


 そんなことを考えていると、まぶたが降りてきた。


 眠い。


 凄く眠い。


「真理ちゃん」


 梨花ちゃんの声が聞こえた。


 ごめんね。今は眠りたい。


「この数字って、何時になると0になるの?」


 どこかで聞いた声が聞こえた。


 グイッと身体が持ち上げられて、私は誰かに担がれたのがわかった。


「え? え?」


 意識が完全に覚醒した。


 誰だ?


 誰かが私を持ち上げている。


 物陰に連れて行かれ、その辺の草むらに押し倒されて、唇に柔らかいものが押しつけられた。


 キスされた!?


 嫌だ。気持ち悪い。


 私はキスしてきた相手を突き飛ばそうとするが、ものすごい力で押さえつけられた。

 手が、私のコートのボタンを外し……止まった。


 私は、そのすきに思い切り突き飛ばした。


「……いった……」


「誰ですか!? やめてくだ……」


 え? は?


「……良かった。キスでも大丈夫だったか」


「何で? なんで優太君がここに?」


「真理。話があるんだ」


「話?」


「とりあえず降りながら話そう。僕はロープウェイのチケットを持ってないんだよ」


「いや。無理だよ」


「どうして?」


「だってもう私には時間が……」


 9:01


「……あれ?」


 手のひらの数字は「2」になっている。


「数字……増えてる……なんで?」


 顔を上げると、優太君がいなくなっている。


「あれ? 優太君?」


 夢か? 夢だったのか?


「お待たせ。天満さんには先にロープウェイで降りて貰うように話をしてきた。卯月さんがカンカンだよって伝えたら青い顔してたよ。時間はかかるけど、2人で歩いて降りよう? いいよね?」


「う、うん」


 何が起きてるの?


 ぜんぜんわからない。


「はい。手をどうぞ」


 優太君が手を差し伸べてくれている。


 私は首を横に振り、


「できないよ」


「僕は怒ってるんだよ、真理」


「え?」


「君の顔も見たくない。だからこうする」


 思い切り抱きしめられて、そのま持ち上げられた。


「これなら顔も見えないし、話しやすいね。ゆっくり降りるよ」


「お、降ろして。重いよ」


「ほんと? 何キロあるの?」


「そ、それは……その……」


「綺麗だよね。夜景」


「う、うん……」


「約束してたんだよね。『優太君』と」


「え?」


「教えてくれないかな? 『優太君』のこと。彼は、どんな人だったの? 僕と同じ?」


「なんで……そのこと……え、なんで?」


「『きのりん』は僕にメッセージを送ってきてくれたでしょ? 『優太君』とのことは僕に話したくない?」


「そんなことないけど……でもなんで知ってるの?」


「それは後で話すよ」


「今……話して欲しい……」


「色んな話を統合すると、真理は一橋と浮気をして『優太君』は死んだ。でもそのおかげで数字が増えて、真理は死なずに済んだ。と言うところまではあってる?」


「……誰に聞いたの?」


「主に夕立さんだね」


「あさひちゃんには、そんなとこまで話してないよ」


「あとはメールとかIMから予想した」


「……」


「『優太君』は優しかった?」


「……うん。優しい人だった」


「『優太君』が、もし僕と同じ性格なら、きっと彼は真理に死んで欲しいなんて思ってないはずだよ」


「……わかってる」


「でも、ケジメはつけなきゃいけないと思った?」


「すごいね。なんでもわかるんだね」


「わかるよ。真理のことだからね。幼い頃からずっと好きだった。ずっと見てたから。真理がどんなことを考えて、どんなことで喜ぶのか、それだけを考えて生きていた」


「私にはそんな価値はないよ」


「それは宝石が決めることじゃない。宝石の価値は、持つ人が決めるものだから」


「私は宝石じゃない。ただの裏切り者だよ。中古品の二度と使えないジャンク品」


「そんなことないよ。真理。僕達は正義病にかかってる。正しくないと生きていけないなんてことはないんだ。誰にだってやり直すチャンスがある。それは僕も同じだ」


「優太君も?」


「僕が逃げなかったら、もっと違う展開になってたはずだよ」

「そんなことないよ。悪いのは全部私」


「真理。僕は、ここに来る途中、ずっと考えてたんだ『優太君』が死んだ理由を」


「それは、私が裏切ったからだよ」


「本当に? だとしたら、その『優太君』は僕とは違うのかもね」


「違うって?」


「僕が死んだら真理が悲しむ。真理の悲しい顔は見たくないよ」


「……ふふ。なんで優太君は、そんなに私のことが好きなの?」


「理由なんて無いよ。理由があったのなら、理由がなくなったときに嫌いになってしまうってことだよ」


「それはおかしいよ」


「そうだね。でも好きだから仕方ない。光に当たると虹色に輝く髪の色とか、少しだけ青みがかっかった綺麗な瞳とか、誰よりも綺麗で長いまつげとか、困ると髪を引っ張るクセとか、照れると口数が減るところとか、嘘をつくときに鼻をひくひくさせるところとか、強そうに見えて本当は臆病なところとか。困ってる人がいると助けようとするところとか。正義感が強いけど、とても優しくて、努力家で、でもそれを人には見せなくて……」


「わかった! わかったから! もういいよ。もうわかったから……」


「『優太君』が死んだのは真理のせいじゃないよ」


「私のせいだよ」


「僕は日記をつけてる。真理のことを書いてる日記だ。真理のために貯金もしてた」


「……知ってるよ」


「なら、そこに真理のせいで死ぬって書かれてた?」


「……でも、私の浮気で苦しんでたことが書いてあった」


「当然だよね。それは苦しむよ。でも、真理のせいで死んだとは書いてなかったんでしょ?」


「……」


「死んだのはいつ頃だった? 高校1年? 2年? 3年?」


「3年生の時だよ」


「ほらやっぱり」


「え?」


「これからなんだよ。きっと僕が死にたくなるようなことが起きるのはこれからだ。その時に、真理がそばにいてくれなかったから僕は死んだんだ。そういう意味では真理のせいだね」


「……」


「また真理は僕を見殺しにするつもりなの? 何が起きるかはわからないけれど、きっと真理がいないと耐えきれない事件が僕に起きる。その時、真理は僕を見殺しにするつもりなの?」


「ズルいよ。そんな言い方……」


「真理。真理は僕の全てなんだ。その為なら何だってする」


 優太君は、途中でストンと私を地面に降ろした。


「ごめんね。やっぱり重か……もがっ!」


 優太君の柔らかい唇が、思い切り押しつけられた。


「……増えないな」


 数字のことだと思う。


「真理。僕は、真央と梨花と付き合ってる」


「え!? え!? 2人と!?」


「うん。だってほら、真央と梨花は、お互いに接点がないから隠し通せるんだよね」


「優太君が急にクズみたいなことを言い出し……んんーっ!」


「……これでも増えないか」


「なに? 数字を増やそうとしてるの?」


「うん」


「もういいよ。私は十分だよ」


「そうだね。真理は十分苦しんだ。次は僕の番だ」


「?」


 優太君は、電話をかけ始めた。


「……結婚しましょう」


 いま、結婚って言葉が聞こえた。


「え、優太君。誰かと結婚するの?」


「よっと」


「わわっ」


 優太君は、私を持ち上げると。


「寒くない?」


「さ、寒くはないよ。むしろ、顔が熱いよ……」


「真理。好きだよ」


「……それはさっき聞いたよ」


「今更だけど『優太君』は、真理に話して貰いたかったんだと思うよ。浮気していたことを」


「そうだね。私は最低だ」


「だからせめて『優太君』の望みを2人で叶えてあげようよ」


「望み?」


「2人でやり直そう。最初から」


「でも……私は優太君を裏切ったんだよ?」


「そうだね。そして僕を『優太君』に見立てて酷いことを沢山した」


「最低だよ。最低のクソ女だよ。これからもきっとするよ」


「真理は髪の毛のえりのところがちょっとクセのある生え方をしていて、髪を短くすると髪がピンと跳ねるのが可愛い。それから緊張すると、右手を右足が一緒に動いたり、二つのことを同時にできなくて、飲み物を飲みながらゴミを捨てようとすると、飲み物をゴミ箱に捨てたりする。その不器用なところがたまらなく可愛い。落ち込むと周りが見えなくなって、電柱に頭をぶつけたり、袋ごとせんべいを食べたりする。全部好きだ。嫌われたと思ったときは、スマホの真理の写真を全部処分したけれど、クラウド上にある5テラの真理の動画データは無事だ。帰ったら動画データを全て写真に切り出して、部屋中にはって」


「わかった! わかった! わかったから!」


「ねえ真理。もう一度やり直そう。でもごめん。僕には2人の恋人と、結婚相手がいるから真理とは付き合えないけれど、こっそり付き合おう」


「……うん。私で良いなら……ってまって! 今なんて言ったの!?」


「付き合ってる人と結婚相手がいるけど見つからないように付き合おうっていったの」


「結婚相手!?」


「ちょっとまってね……はい」


 スマホを受け取って耳に当てると、


『真理ちゃん?』


「あ、葵さん?」


『そういうわけで、優太と結婚することになったから』


「え? 嘘ですよね?」


『安心して。真央が優太に愛想を尽かしたら、すぐに捨てるつもり』


「……」


『でも、言っておくけど、うちの優太に手を出したら絶対に許さないからね』


 電話が切れた。


 背筋が凍るような冷たい言い方だった。


「……ゆ、優太君……」


「真理。だから絶対に秘密だからね」


「いや。さすが……んん~っ!!」


 無理矢理キスしてきた優太君を突き飛ばす。


 優太君は私の右手を掴み。


「……増えたね。数字」


「……」


 え、嫌な予感がする。


「真理。二人で100年分のキスをしよう。約36500回。絶対にバレたら駄目だ。特に葵さんにはね」


「……」


「今日は誰と相部屋で寝る? こっそり夜に行くからね」


「……」


「真理」


「……はい」


「もう、絶対に逃がさないから」





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これにて最終回となります。

イチャラブ番外編は書きます!

みなさまには大変ご迷惑をおかけしました。

次回作は、今回の反省を生かし、もっともっと面白いものを書こうと思います。

プロットと書きダメはしっかりやろうとおもいます!

本当にありがとうございました!!

面白かったというかたは是非↓から「★」「レビュー」などおねがいいたします。

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