第77話
またやってしまいました。書きかけの文章をアップしてしまった。ごめんなさい。
大事な所なのに。こっちが本当です。推敲前ですが。
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◆◇桜田優太◆◇
12月25日(水)16時
メモ用紙をもう一度確認する
『唐揚げ用の鶏肉、飲み物各種(コーヒーは無糖)』
飲み物は買ったので、後は肉だ。
たまには地域貢献しようと思ったので、近くの商店街の肉屋まで足を伸ばした。
「あったあった……」
大きく『田中精肉店』と書かれた看板の下に、やる気の見えない30代の黒エプロンの女性が空を見上げているのが見えた。
「こんにちは」
声をかけると、
「あ。いらっしゃ」
やる気のない表情でこちらを向いた。
「唐揚げにつかいたいんですけど、お肉貰えますか?」
「唐揚げ? って事は牛肉だね……」
「いや、鶏肉ですよ」
僕が言うと、
「何人前?」
そういえば、何人前なのか聞くのを忘れていた。
「ええと……3、4人前で」
「3千円ね」
え!?
「……ちょっと……高くないですか?」
「最近さ。商店街も不景気なんだよね。だから値段を3倍にしようってみんなで話しててさ」
「……不景気を加速させる気がします」
「まぁまぁ、この美味しくない肉まんつけてあげるからさ」
「美味しくない肉まんはいりません」
今からスーパーを探して寄るとなると、さらに遅くなってしまう。
仕方ない。
「その価格でいいのでください」
「普通のお客さんは怒って帰っちゃうのに買うんだね」
「……やっぱりやめようかな」
「値引きしてあげようか?」
「え、本当ですか?」
「うん。私の質問に答えたら、半額にしてあげる」
「答えられなかったら?」
「倍」
「やめておきます」
「ウソウソ。冗談だって。質問に答えられなくても何もしないよ。殺したりしないよ」
「……殺したり……しない?」
すごく物騒なことを言い出したな。このお姉さん。
「どうしたの? やけに疑い深いね」
「いや、疑り深いとかは関係ないと思いますけど……」
「それじゃあ質問するよ」
「え、あ、はい」
「もしも、願い事が一つ叶うとしたら、君は何を願う?」
「願いですか? 何でもいいんですか?」
「もちろん」
「じゃあ願い事を無限に増やしてください」
「よくあるやつだね。でも増やしてどうするの?」
「お守りにします。いざとなったら僕は無敵だぞっていう、虚勢を張るための」
「……君はけっこう、おかしなヤツなのかな」
この人だけには言われたくない。
「それで、値引きの方は?」
「2900円引きでいいよ」
「安すぎて逆に怖いですよ。半額にしてください。で? お姉さんはどうなんですか?」
僕は、1500円を会計の皿に置きながら聞いた。
「私をお姉さんだなんて、君。お世辞がうまいね。無料にしちゃおうかな」
「いえ。払わせてください」
「それで? 何だっけ?」
「願いですよ。何を願うんですか?」
「私? そうだな-。私は人類の滅亡かな……静かにくらしたいんだよね」
このお姉さん、結構ヤバい人だな。最初から思ってたけど。
「あとこれ、福引きの引換券。どうぞ」
「福引き券?」
「うん。そこの福引き所でできるよ。1000円で1枚だから、10枚あげるね」
「計算苦手なんですね。1枚ですよ」
「でもそれだと1回も引けないからさ。いいよ。何枚持って行っても」
「……」
まぁ、いいか。
結局10枚貰った。
福引き所で、ガラガラを回すと、シロの外れの後に、金色の玉が出た。
おお……これはもしや……、
「大当たり!」
「やった!」
「3等です!」
ガランガランと、係の人がベルを鳴らした。
「……」
なんで3等なんだ。金色なのに。
「3等の景品はこちらです」
景品を貰う。
「……」
来た道を戻って精肉店へ。
「あれ? お兄さん戻って来たの? 福引き当たらなかったからって私のせいにされても困るよ」
「違いますよ」
「ん?」
「当たったんですよ。ノイズキャンセリングイヤホン」
「え? なに? 自慢?」
「違います。プレゼントします」
「なんで?」
「このイヤホンは、周りの音が聞こえにくくなる効果があるらしいです。だから、人類滅亡を考える前に、これで静かな生活を検討してみてください」
「あ、ホントだ。何も聞こえない。これで客の相手をしなくてもいいね」
「仕事はしてくださいね」
「うわ。すごい。目の前で殺されてるみたいな臨場感」
「いったい、何を聞いてるんですか?」
「そうだ。じゃあこれあげるよ。お礼」
ドサッ、と封筒を僕の前に置いた。
「これは?」
覗き込むと、札束が入っている。
「この赤いの……絵の具ですか?」
ベタッとしたものが手についた。
「血だよ」
「やめてくださいよ!」
「お客の忘れ物なんだよね。良かったら使ってよ」
「まずは警察に届けてください」
「いや、血まみれだから無理だよ。私が疑われちゃう」
「僕だって無理ですよ」
「ふーん。欲がないんだね」
「そういう問題じゃないと思いますけど……」
「じゃあこっち。はい」
ミカンだった。
「あ、それなら……」
ミカンを受け取る。
「これ大事に使うね。ありがと」
ニコッと笑みを浮かべた、黒エプロンのお姉さんはイヤホンの入った箱を、ゆらゆらと頭の飢えで揺らした。
#★☆天満梨花★☆
私は感動していた。
「チャイニーズバーガーってメチャクチャ美味しいね!! 真理ちゃん!」
「それより腕は大丈夫?」
「うん。全然大丈夫だよ」
「なら五稜郭の近くの味さいって塩ラーメンがまた美味しいらしいよ」
「よし、今日は太ろう真理ちゃん」
「うん。めっちゃ太ろうね」
二人で食べ歩きつつ、タクシーに乗って移動していると、ものすごい行列が見えた。
「真理ちゃん。あの行列なんだろうね」
「運転手さん! 車とめてください!」
真理ちゃんが言って、車が急ブレーキを踏んで停止した。
「……ビックリした。どうしたの? 真理ちゃん?」
「今日、あれに絶対に乗りたいの」
タクシーを降りて、行列に向かう。
「これ、何の列なの?」
「ロープウェイの列だと思う」
列の一番最後尾に、係の人が立っていて
「ロープウェイは3時間待ちだよ」
「3時間待ち!?」
「今日はクリスマスだから、すごい混んでるんだよ。21時までだから、今並んでもギリギリ乗れるかどうか……」
係の人が、申し訳なさそうに言った。
「梨花ちゃん。並ぼう」
「え、うん……良いけど……でも、ロープウェイって事は、高いところに行くんじゃないの?」
私が聞くと、
「うん。どうしてもここに行っておきたかったんだ」
「……21時……過ぎちゃうよ?」
それは真理ちゃんのタイムリミットだ。
「うん」
「……わかった。じゃあ並ぼう」
「ありがとう、梨花ちゃん」
二人で話していると、あっという間に時間は過ぎた。
真理ちゃんはロープウェイに乗ると、
「高い高い高い。怖い怖い怖い」
目を瞑りながら私にしがみついてきた。
ロープウェイを降りて、展望台から夜の函館の街が一望できた。
「寒い!」
山の上だけあってさらに気温が低かった。
私は震えていたけれど、真理ちゃんは街の明かりをジッと見つめていた。
「綺麗だね」
と、私が言うと、
「うん。凄く綺麗」
「……本当は誰かと来たかったんじゃないの?」
私が聞くと、
「梨花ちゃんと来れたから十分だよ」
「そっか」
「うん」
私は腕時計で時間を確認する。
スマホがないので昼間に買ったイルカが書かれた可愛い腕時計。
適当なお土産屋さんで真理ちゃんと二人で買って、贈りあった時計だ。
時間は20時48分。
あと12分だ。
「……なんか、眠くなって来ちゃった」
真理ちゃんはそう言って、ベンチの背もたれに身体を預けて目を閉じた。
「……真理ちゃん?」
声をかけたが返事がない。
彼女は目を閉じたままだ。
「まだ早いよ。もうちょっとお話ししようよ。真理ちゃん」
私は彼女の肩に手を置いて、彼女の名前を何度も呼んだ。
◇◆桜田優太◇◆
エコバッグに入るギリギリの量の飲み物と肉を両手で持ちながら玄関を入ると、
「あ、おかえりなさい」
と、真央が出迎えてくれた。
「あれ? ずっと待ってたの?」
「うん。荷物持つよ」
「重いよ」
と、言いつつ真央に手渡すと、
「うわ! おもいっ!」
持ちきれずに、エコバッグが床についた。
「ほら。だから言っただろ?」
真央に渡したエコバッグを持ってあげると、真央が急に抱きついてきた。
「どうしたの?」
「えへへ。中でお姉ちゃんが美味しいご飯作ってくれてるよ」
「ほんと? 楽しみだな」
キッチンまでたどり着くと、葵さんがエプロン姿で包丁を持っていた。
「あら、ようやくお肉が来たのね」
「お待たせしました。ちょっと肉屋と色々あって」
「いいから早くお肉ちょうだい」
「あ、はいはい」
僕は肉の包みを葵さんに手渡した。
「……これ、牛肉なんだけど……」
あの肉や……。
「唐揚げにしようと思ってたけど、仕方ないわね。シチューにしましょうか」
「やった! シチュー食べたい!」
「鍋を出すの手伝ってくれる? その棚の上だから」
「あ、はい。わかりました」
大きな寸同鍋鍋を取りだして、ガスコンロの上に置いた。
「あれ? その指輪……」
葵さんの薬指に、指輪があった。
「これ? つけてみたの。似合う?」
僕は頷いて、
「ね。優太君。新しいゲームあるんだ。やろうよ」
「ちょっと真央。今日はお客さんもいるんだから、ゲームは後にしなさい」
と、葵さんが真央を注意した。
「あ、私のことはお構いなくです!」
キッチンの向こうのテーブルに、ちょこんと座った女の子。
「あれ夕立さん? 来てたんだ」
「優太さん。お久しぶりですね」
「うん。久しぶりだね」
「真央。兄さん呼んできてくれる? 野菜を刻んで欲しいの」
「わかった」
と、真央は答えて部屋の方に走っていった。
「あ、僕やりますよ」
「いいのいいの。部屋でゆっくりしてて。ジュース重かったでしょ?」
「じゃあ……お言葉に甘えて……」
僕は、部屋に入ってコタツの中に足を入れた。
ああ、やっぱりコタツはいいな。
僕は、肉屋から貰ったミカンをかばんから取りだして、
「食べる?」
と、先にコタツに入っていた彼女に手渡した。
「うん」
彼女の指先が、ゆっくりとミカンの皮をむいていく。
「本当に指が綺麗だよね。爪も艶々してる。いつもどうやって手入れしてるの?」
彼女の手もとてもスベスベしている。
「ちょっと。皮がむけないんだけど……」
「ごめんね。でも、まつ毛もちゃんと伸びて来たね。何でこんなに綺麗なんだろうね」
僕が彼女の前髪をあげると、彼女は顔を赤くして少しだけ身を引いた。
「何で逃げるの?」
「だって……キスするのかと思ったから……」
「……嫌だった?」
「……嫌じゃないけど……」
「何? 聞こえないよ」
と、顔を近づけると、
「ちょっとちょっと優太さん。私がいるのを忘れてませんか?」
と、反対側から、明るい髪の色の女の子が、顔を半分だけ顔を出していた。
「忘れてないよ。なんでそっち側にいるの?」
「同じ向きで三人は狭いですよ」
「やってみようよ」
「そうですね。やってみましょう」
彼女は立ち上がってすぐ隣に入ってきた。
「狭いからこうしないと駄目ですね」
と、彼女は僕にのしかかって来た。
「じゃあ私も」
と、反対側も同じようにのしかかって来た。
二人の可愛い頭頂部が目の前にあり、シャンプーのいい匂いがした。
「二人に言っておかなくちゃいけない事があるんだ」
僕は言った。
「葵さんと結婚したって話、アレは嘘なんだ」
彼女たちは言った。
「知ってましたよ」「うそ!?」
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