第二.五部(木下真理)

第62話 清算2





 ヤツは言った。


「ネットで売られてたんだよ。何枚か買ってみたんだけど、これ、本物だよな?」


「ネットで? どこのサイト?」


 私はポケットからスマホを取り出して、ひもを引いてから画面を開いた。


 このスマホ。


 俗にいうキッズスマホだ。


 ひもを引くと、私の居場所とSOS信号が保護者に送られる。


 この場合の保護者は【卯月さん】と【葵さん】の二人だ。


 今頃二人のスマホからは、ものすごいサイレンが鳴っているはずだ。


 いずれ何か仕掛けてくることはわかっていた。


 まさかこんな堂々と来るとは思っていなかったけど。



「この子。最近目立ってきたアイドルだよね? シシリリカっていうんだっけ? かっわいいよね。胸もめちゃくちゃでかい。でも大丈夫なの? 自宅のこんな写真撮られちゃって」


 これは完全に予想外。


 梨花ちゃんの事まで調べてられるとは思わなかった。



「決まってるだろ。12月24日だよ。お前が死んじゃう日」

「おいおい。なんで俺が知ってるの? って顔してるな」



 じゃあ、うまく顔を作れてるね。


 知ってるよ。


 あの日。


 ロッジで私の荷物を荒らした時に、GPSを発信する機器と盗聴器を仕掛けたんだよね?


 タイミングとしてはあそこしかない。



 私がいつも持ち歩いているスポーツバッグの内側に小さな切れ込みがあって、GPSの発信機が中に入っていた。


 気付いたのは最近だけど。


 それから猫のキーホルダー。


 いつの間にか私のスポーツバッグにとりつけられていた。


 優太君がお揃いのキーホルダーをつけていたので、てっきり優太君がつけてくれてたものだと思ってたけど、これがなんとボイスレコーダーになっていた。


 何日も録音し続けられるヤツだ。


 やってくれる。


 私の情報は、人に話した内容は、全部筒抜けだったと思った方がいい。



「ごめんな。ずっと黙ってて。俺もお前とすることでカウントがあがってたんだよ」


 私が人に話したことをヤツが知っているのだとしたら、こんなトリックは子供騙した。


 たんに数字を手のひらに書くだけでいい。


 それだけで『何も知らない私』には大ダメージだろう。


 コイツの目的は、最初から私と優太君を苦しめる事なんだから。


 それに、一回目の一橋達也は私の事を「真理」って呼ぶんだよ。


 「木下真理」ってフルネームで言ってる時点で嘘だとわかる。



「それよりお前。この状況で、逃げられると思ってないよな……」


「……」


「お前ら、はいってこい」


 次々と、男達が入ってくる。


「悪いな木下真理。だけど俺も生きるためだから。人助けだと思って諦めてくれよ」


「君たち何してるんだ!! 近所からの通報があったぞ!!」


 卯月さんと葵さんには、私からのSOSがあったら迷わず警察に通報するように言ってあった。


「助けてください!」


 私は、警察官に向かって叫んだ。


「おい、やべえぞ!」


「逃げろ逃げろ!!」


「おい! 警察だ!!」


「逃げろーっ!!」


 玄関に。


 逃げ惑う彼らの、絶望の足音が響いた。







 私は卯月さんにスマホで連絡して、梨花ちゃんの無事を確認した。


 梨花ちゃんの住んでいるアパートが一橋達也に盗撮されていることを伝え、早急に引っ越ししてもらうように伝えた。


 それから、梨花ちゃんを不安にさせないように、一橋達也の事や盗撮のことは黙っておいて欲しいと伝えておいた。


 それから私は葵さんと、あさひちゃんにも電話して、二人が狙われる可能性がある事を伝えて謝罪した。


 二人の返事はこうだった。


「そんな覚悟なんてとっくにできてますよ。お姉さまの方こそ気を付けてください」


「自分の身は自分で守れるわ。真理ちゃんの方こそ気を付けて」



 私は、マンションを買うことを決意した。


 絶対に部屋に入れないような、セキュリティの高いマンションだ。


 そこに梨花ちゃんとあさひちゃんに住んでもらう。



 ヤツから受け取った盗聴器。


 24時間つけっぱなしにしろとか言ってたよね?


 いいよ。


 今も聞いてるんでしょ?


 私は古いスマホに充電器をつけて、動画サイトのお経をリピート再生して、盗聴器と一緒に押し入れに放り込んだ。


 お経で心穏やかになってほしい。




 私はもう、絶対に負けない。

 


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