第61話 清算

本日、3回目の更新です。お気をつけてください。

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 新入生も含め、コミュニティには、人が順調に集まっていった。


 私は常に武器を持ち歩き、慎重に行動し続けていたが、あれ以来、一橋達也からの接触はない。


 静かすぎるのが逆に不気味だった。


 けど、それならそれでいい。


 その間に、私は優太君と距離を置く。


 そして、関係が冷え切ったところで梨花ちゃんにバトンタッチする計画だ。


 毎日していた連絡を、2日に1度、3日に1度と減らしていく。


 一緒に行く予定だったいくつかの予定を私の都合でキャンセルし、朝や帰りも、あまり一緒に通学するのをやめていく。


 自然に。


 冬が来て、最後が近づいたら、私は誰にも行き先を告げずにこの場を去る。


 いく先は決まっている。


 1回目の時に、優太君と約束していけなかったあの場所だ。




 計画は順調だった。


 順調に私と優太君の心の距離は開いていった。


 夏休みに入り、私は隣の家側のカーテンを開ける。


 もうすでに1週間以上話していないことに、優太君は気付いているだろうか。


 優太君から届いたショートメールは全て無視した。


 ピンポーン、と家のインターフォンが鳴る。


 まさか。


 優太君だろうか。


 期待してはダメなのをわかっていながらも、私の階段を降りる足取りは軽い。


 仕方ない。


 優太君が家に来た場合は仕方がない。


 玄関の扉を開ける。


「よお……おい待てよ! お前、家の中でも金属バット持ち歩いてるのかよ!?」


「……何の用?」


「いや。お前に謝ろうと思って来たんだよ。今までのことをさ」


「別にいい。謝罪されても不愉快なだけだから」


「待て待て。落ちつけって。ホント。反省してるんだ。今まで酷いことして本当にごめんな」


「どうでもいい。早く帰って」


「もう俺の負けだ。色々考えたんだけど、お前には勝てそうにないから白旗をあげに来たんだよ」


「そう。じゃあお互い不干渉でやっていきましょう。それじゃ」


「待てって。お詫びの印にこれを貰ってくれないか?」


「いらない。帰って」


「即答かよ。ほら、これだよ」


 ヤツはポケットから一枚の写真を取り出すと、私の足下に放った。


 私は視線をヤツから外さない。


 今、家には誰もいない。


 襲われたら一巻の終わりだ。


「見ないのかよ?」


「見ない。どうでもいい」


「仕方ないな……ほら。これならどうだ?」


 ポケットからもう一枚、写真を取りだして私に見えるように手に持った。


 ……あさひちゃんの写真だった。


 通学している写真。


 他の生徒もうつっている。


「ネットで売られてたんだよ。何枚か買ってみたんだけど、これ、本物だよな?」


「ネットで? どこのサイト?」


 私はポケットからスマホを取り出して、ひもを引いてから画面を開いた。


「いやそれが、PCからしかアクセスできないサイトなんだよ」


「PCからのみ?」


「ああ。だから、良かったらうちにこいよ。見せてやるよ」


「やっぱりね。そんな事だろうと思った」


 私はスマホをしまい、金属バットを持ち直した。


「その写真。あんたが撮った写真ね?」


「いや。ホントなんだって。ネットでこういうのが大量に売られてたんだよ。信じてくれよ」


「本当だとして、どうして私の所に持ってくるの? 学校とか警察とか、いくところは他にあるでしょ?」


「いやいや。それには理由があるんだって」


「理由?」


「これだよ」


 それは、あさひちゃんがお風呂に入っている写真だった。


「……」


「これはまずいだろ。見えちゃいけないものが、完全にうつってる」


「…………なんで?」


 ロッジの時に盗撮した物かとも思ったが、違う。


 自宅のお風呂に見える。


 つまり、こいつはあさひちゃんの自宅に侵入した。


「この……犯罪者が……」


「おいおい勘違いするなって。これもネットで売られてたんだって」


「ウソよ……絶対にあんたが撮影したんでしょ」


「決めつけるなって。他にもあるんだよ。どうする?」


「何が「どうする?」よ。白々しい」


「いやいや。だからそれを相談に来たんだよ。決めつけるなよ。もし、犯人を捕まえるっていうなら協力するぜ」


「犯人は目の前にいるでしょ」


「おいおい。冗談キツいな」


「冗談のつもりないんだけど」


「でもいいのか? こんな写真が出回ったら、あさひが襲われたりしちゃうかもしれないぞ?」


「だったら警察に持っていきなさいよ」


 考える時間が必要だ。


 まずはあさひちゃんに言って、自宅にカメラが仕掛けられてないかをチェックする。


「へえ。そんな薄情なこというんだ」


「とにかく帰って。あさひちゃんには私から言っておく」


「じゃあさ。これはどうなの?」


 取りだしたもう一枚の写真。


 それは、彼女が着替えている写真だった。


「……」


「この子。最近目立ってきたアイドルだよね? シシリリカっていうんだっけ? かっわいいよね。胸もめちゃくちゃでかい。でも大丈夫なの? 自宅のこんな写真撮られちゃって」


「……なんで…………」


「え? なにが? なにがなんでなの? よくわかんないよ。教えて」


「……何が……目的なのよ?」


「別に目的とかはないんだけどさ……前にさ、真理たんが優太を自殺に追い込むって言ってたよね? あれってもうやる気ないの? 口だけだったの?」


「口だけのわけないでしょ」


「本当かなー? いやほら。俺って嘘つきが嫌いだからさ。嘘ついたヤツって絶対許せないからさ。だから、この子がぐちゃぐちゃに犯されたら、どうなるのかなって、楽しみに思ってるわけ」


 そう言って写真をパッと手放した。


 ヒラヒラと、梨花ちゃんの写真が床に落ちる。


「……いかれてる」


「お前が悪いんだよ。嘘をつくからさ。お前が悪いから、お友達が。可哀想だね。天まりちゃん。俺も大ファンだったのに」


「……」


「今。金で雇った別働隊が、天まりちゃんの自宅に向かってるところだよ。彼女、今日はオフなんだってね。家でゆっくりするのがすきなのかな? でもまさか、家に強姦魔が入ってくるなんて夢にも思ってないだろうね。本当なら俺が行きたかったなー」


「クソ野郎……」


「お前が悪いんだよ。他人と仲良くしたりするからさ。その分優太は頭が良いよな。友達がいないから好きが無かった。あいつは賢いよ」


「……黙れ」


「なのにお前にはガッカリだよ。あっちこっちで友達作っちゃってさ。なに? リア充アピール? でもお前のせいで全員やられちゃうんだよ。天満梨花も、あさひも」


「わかった。わかったから、もうやめて」


「やめてください、お願いします。だろ?」


「やめてください……お願いします……」


「いいねえ。やめてほしかったら、お前が桜田優太を追い詰めて自殺に追い込め。この事は誰にも喋るな。ほら、盗聴器だ。24時間つけっぱなしにしろ。お前が誰となにを話したか、俺がわかるようにしろ。いいな?」


「……わかった」


「お前がサボってるように感じたら、すぐに俺は実行に移すよ? 何をって聞くなよ? わかってるよね?」


「……わかった」


「でも期限を設けないと面白くないよね」


「……期限?」


「ああ。いつだと思う?」


「……いつなのよ」


「決まってるだろ。12月24日だよ。お前が死んじゃう日」


「……え?」


「おいおい。なんで俺が知ってるの? って顔してるな」


「……」


 真子には言ってないはず。


「どこから漏れた? なんて考えてるんだろうな。今。お前は」


「……」


「むしろ俺は、なんで俺が知らないと思ってたのかの方が不思議だよ」


「……何を……言ってるの?」


「おいおい忘れてしまったのか? 俺は悲しいなあ」


「……」


「あんなに愛し合ったのに」


 一橋達也は、ゆっくりと、自分の手のひらを、こちらに見せた。


「ごめんな。ずっと黙ってて。俺もお前とすることでカウントがあがってたんだよ」


 手のひらに……数字が……書かれていた。


「……うそだ」


「何もウソじゃねえよ」


「そんな数字。絶対に無かった」


「隠してたんだって」


「どうやって?」


「そりゃ色々だよ」


「あんたも2回目? 死んだの?」


「それを聞いてどうするんだよ」


「うそだ……信じられない……」


「そんなことは良いよ。それよりお前。この状況で、逃げられると思ってないよな……」

「……」


「お前ら、はいってこい」


「待ってました! あの木下真理を好きに出来るって聞いて夜も眠れなかったんスよ」


 背の低い男。


「この前は良くもやってくれたなあ。木下」


 頭がウニみたいになってる顔にやけどの男。


 次々と、男達が入ってくる。



「悪いな木下真理。だけど俺も生きるためだから。人助けだと思って諦めてくれよ」



 玄関に。


 絶望の足音が響いた。









第二部 完





「梨花はこのマンションから絶対に出ちゃだめよ」


 いきなり卯月さんの家に連れてこられて、私はそう言われた。


 口調が怖い時のモードだ。


「え? どうしてですか?」


「いいからちゃんと聞きなさい。鍵は必ず二重ロック。窓は開けちゃダメ。万が一外出する時は必ず二人以上で。いつでも例外なくよ」


「あの。何かあったんですか?」


「わからない」


「え?」


「何も喋らないのよ。あの子」

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