第60話 身長がわかれば何でもできる

本日2回目の更新です。3回目は夜の20~22時頃を予定しております。

次で第二部完結となります。

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 黒鉄さんと仲良くなった私は、彼女を『石川健太郎自宅ツアー』に招待した。


 けれど、返って来た返答は『NO』だった。


「どうして? 好きなんだよね?」


「木下氏は、まだわかっておらぬようだな。ファンと推しは、近づきすぎてはならぬのだよ。イカロスと太陽のようにな」


「太陽の熱で焼けこげちゃうって事?」


「その通りだ」


「じゃあ、写真撮らせてもらって来たんだけど、これはいらないか」


「待つのだ木下氏よ。それは別である。全然欲しい。全然欲しいから」


「いいよ。はいどうぞ」


「ふおおおお!!! こ、これは! もしやイシケンの自宅であるか!?」


 黒鉄さんは、突然奇声をあげ始めた。


「そうだよ」


「少し待つのだ、木下氏よ」


「う、うん……」


 黒鉄さんはスマホで何かを検索し始めると、


「やはりか! このイシケンの隣にあるトレーニングマシン。家電量販店で取り扱いのあるタイプ!」


「……それがどうかしたの?」


「『せお☆スタ』は、公式で身長が公開されておらぬのだよ。なので実際に量販店に行って、このトレーニングマシンの大きさを計測すれば、おおよそのイシケンの身長がわかる! というわけなのだよ。木下氏よ」


「身長なんか知ってどうするの?」


「木下氏よ。身長がわかればなんでもできるのだぞ」


「なんでも?」


「そうだ。これを見るのだ木下氏よ」


 そう言って彼女はスマホを差しだして来て、


「これは身長と名前と性別を色を入れると、いい感じに表示してくれるサイトなのだが」


「うん。それで?」


「実際やってみよう。例えばここで、我と木下氏の身長と性別と色を入力する。我が黒で、木下氏をピンクとしよう」


 すると、仲良く寄り添っている、ピンクと黒の女の子のシルエットが表示された。


「これが……?」


「わからぬか。推しの身長を入力すれば、推しと二人で並んで歩いた時の背の高さがわかるのだよ」


「……つまり?」


「つまりだ『せお☆スタ』でいえば、石川健太郎氏と音無音遠(おとなしねおん)氏の身長を入れたとする。すると、二人の推し達が並んで歩くとき、推しがソファーに押し倒された時、推しがお風呂に一緒に入った時に、どの位置に、推しのどの体のパーツが来るかがわかるのだ。もはや推し達と同棲しているのと同じなのだよ」


「それって推し同士じゃなくて、自分と推しでもいいのかな?」


「もちろんだ。木下氏よ」



「あ、黒鉄さん! 図書委員の事で話があるんだけど!」

 

 クラスメイトの男子生徒が、黒鉄さんに声をかけてきた。


「……」


 黒鉄さんは、急に動かなくなった。表情も硬い。


 実は黒鉄さんは、男子生徒と話が出来ない運命を背負って来て生まれてきている。


「私が伝えておくよ。なに?」


「え。でも、ここにいるのに……」


 男子生徒が戸惑いながら、鋼のように動かなくなった黒鉄さんを見た。


「いいからいいから。それで? 話って?」


「うん。実はね……」


 黒鉄さんが元に戻ったのは、男子生徒がいなくなって1分ほど経過してからだった。


 






☆手のひらの数字が0になるまで……『214日』



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