第57話 side 天満梨花②
あの日から、真理ちゃんは急速に元気がなくなっていった。
痛々しいその笑顔を見るたびに、私の胸は後悔で一杯になった。
……あんなこと、言わなきゃ良かった。
でも、真理ちゃんには死んで欲しくない。
「卯月さん。お願いがあるの」
私は、マネージャーの卯月千草さんにお願いして、一緒に新聞や図書館の文献などを探して回った。
手の平の数字に関して、何かわかれば、解決の手がかりとなるかも知れない。
けれど、結果は芳しくなかった。
―
「梨花ちゃん。男性アイドルを紹介してくれないかな?」
四月の半ばごろ、真理ちゃんがそんな事を言って相談してきた。
「男性アイドル?」
私の紹介できる男性アイドルは、1人しかいない。
『背負い投げ☆スターズ』というユニットのリーダーの石川健太郎だ。
親切な人なんだけど、苦手な人だ。
「出来ないかな?」
と、真理ちゃん。
「いいよ。でもどうして?」
「一橋達也対策だよ」
その名前が出てきてドキリとする。
今、言ってしまった方がいいだろうか。
やっぱりやめようって。
「今、生徒会と協力して色々やってるんだけど、今年の1年生への周知があんまりうまくいってなくてさ」
「周知?」
「うん。実は、学校では一橋達也に近づかないように女子同士のコミュニティが作られているんだけど、去年まではカリスマ生徒会長がいて、勝手にネットワークが広がっていったんだけど、今年はうまくいっていなくて」
「そうなんだ……一橋達也ってそんなに危険な人なの?」
「危険だよ」
真理ちゃんは、キッパリと言った。
「そ、そうなんだ」
今が言うべき時だ。
やっぱり止めてもらおう。
一度言ってしまった事だけど、謝って、関係を持つのはやめて貰おう。
「でも安心して。私は別だから」
真理ちゃんが言った。
「別?」
「ほら」
そういって、彼女は手の平をこちらに向けて来た。
「数字。増えたでしょ? 一橋達也は私には優しいんだよ」
「……え」
「これで優太君のこと、お願いできるよね?」
「ごめん。ごめん真理ちゃん……ごめん」
「梨花ちゃん?」
これでは今更「撤回しようと思ってた」なんて言えない。
真理ちゃんのしたことが全部無駄になる。
ごめん。もっと早く言うべきだった。
でも、もう遅い。
「任せて真理ちゃん。桜田優太さんは私が守るから」
私はうまく笑顔を作れているだろうか。
こんな時、自分の才能のなさが嫌になる。
「悪いけど、お願いね」
真理ちゃんは悪くなんて無いよ。
悪いのは私。
真理ちゃんが望むなら、私の人生、丸ごと桜田さんに捧げたっていい。
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