第35話 side Yuta Sakurada(2022/1/20修正済)


 真理に告白したのは、中学校の卒業式の後、校舎裏にある大きな木の下でだった。


「嬉しい。私も好きだよ」


 そう言って付き合い始めた。幸せだった。


 高校に入って親友もできた。


 その親友の一橋達也君から、ある日こんなIMが届いた。


【一橋達也:お前の幼馴染。最高だったわ。アンアン言ってたぜ】


 何の事かわからなかった。


 動画が添付されていて、開くと、真理と一橋達也君が一緒にしている動画だった。


「なんだ……これ……」


 意味が分からなかった。


 信じられなかった、



 いや、こんなことあるはずない。


 真理がこんなことするはずない。



 下駄箱に1通の手紙が入っていた。


 開くと『優太さん。私、優太さんの事が好きです』


 差出人は『夕立あさひ』



 告白の手紙。全然興味が持てない。


 そうだ。


 この手紙を使って真理を揺さぶってみよう。


 あれが真実なら、何かわかるはずだ。



「真理。僕、告白されちゃったよ」



 僕は真理に手紙を見せる。


「なんだか嬉しそうだね」


という返事。


「うん。嬉しいよ」と、嘘の返事をする。


 真理の反応が怖い。


 真理の反応を見るのが怖い。


 結局、真理の反応を見る事は出来なかった。



 僕は俯いて、ただ意味のない紙の表面を眺める事しかできなかった。




「ちょっと用事が出来ちゃった」


 図書室で一緒に勉強する予定だった真理がそう言って、どこかに行ってしまった。


【一橋達也:ほら、今日の分な】


 また動画だ。

 

 女と男が抱き合っている動画の下に、今日の日時が表示されていた。



 真理の用事はこれだったのだと思い知る。


 

 


「優太君。今からエッチなことするね」


 真理が突然そんな事を言い出して近づいてきた。


 とても受け売れられない。


「だ、駄目だよ!!」


 真理の驚いた顔。傷ついた顔。


 やってしまった。


「こう言うのは、大人になってから、大切な人とするものだよ」


 僕は言って、なんとかリカバリーを試みるがうまくいかない。



 真理は僕に手の平の数字を見せて、


「でもね。エッチなことすると増えるんだよ。だからしよ?」


 エッチな事をすると増える?


 待ってよ。


 何を言おうとしているの?


 数字が増えるからアイツとしてるっていうの?


 何で僕じゃないの?


 イラっとして言ってやった。


「え? 待って。なんでエッチな事をすると増えるって知ってるの?」


 真理はなんて答えるだろうか。


「……」


 真理の傷ついた顔。


 今度は心が痛まなかった。





 夜。


 真理がやって来た。


 僕は寝ているふりをして、真理が帰っていった後で泣いた。


 彼女は何がしたいんだろう。






【優太。カラオケに行こうぜ。真理も誘えよ。この意味、わかるよな?】


 カラオケが始まると、スマホが鳴った真理が部屋を出て行って、それから一橋達也が出て行った。


【一橋達也;ほら、今日の分な】


 また動画が送られてきた。





 最近、真理と一緒に帰れていない。


 何をしているのかは知っている。


 彼女の事はもう嫌いだし、大好きだ。


 嫌いだけど離れられない。


 だから距離を置いている。


 一緒に帰ろうと言って拒絶されたら怖いから。もう別れようと言われたら怖いから。


 でも言おうと思った。


 勇気を出して。


 このままじゃ何も変わらないから。




 真理を探すと美術室にいた。


「最近、一緒に帰れてないから、一緒に帰ろうと思って」


 緊張の一瞬、


 でも真理は、あっさりこう答えた、


「遅くなってもいいならいいけど、かなり遅くなるよ?」


 拒絶されなかった。少しだけホッとする。


 けど、遅くなるという。




【一橋達也:ほら、出来立てほやほやだぞ】


 また動画が送られてきた。


 僕が動画を再生すると、


「……まだ待ってたの?」


 急に声がして驚く。


「う、うん。遅くまで大変だね。絵は、はかどった?」


 僕はスマホをポケットにしまった。



「もし私が浮気して、男の人とエッチな事してたらどうする?」


「え……」


 言うつもりだろうか。


 ヤツとしていることを、ここで言うつもりなのだろうか。


「違うよ。もしもの話だからね」


 なんだ。もしもの話か。


 なら正直に答えよう。


「ええと……そうだな。ちゃんと理由を聞いて、それからちゃんと真理にフラれようと思うよ」


「なにそれ。どういう意味?」


「真理はそんなことする人じゃないから、してたとしたら僕に理由があるんだと思う」


「そっか。じゃあ理由もなく他の人としてたら?」


 え? 理由もなく?


「理由……ないの?」


 僕が聞くと、真理は少し驚いた顔で


「え?」


「理由があったら、ちゃんと教えて欲しい」


 教えてくれたら、ちゃんと僕は別れる。


 真理とさよならするよ。


「違うって。なに本気にしてるの。冗談だよ」


「なんだ。冗談か」


 教えてくれないんだね。


 もういいよ。





【一橋達也:ほら、今日の分な】


 また動画だ。


 もう再生しない。


 どうせ似たようなものばかりだし。



「ねえ真理。スカイツリーに行こうよ」


 真理は高い所が苦手だ。


 怖がらせてイジメてやろう。





「やっぱりやめよう。週末の天気が悪いんだって


 僕は意気地なしだ。


 ギリギリになって怖くなった。


 そもそも真理を怖がらせて、意趣返しをして、何になるっていうんだよ。




「ねえ優太君。今日はずっと二人でいたい」


 真理が言い出した、


 嬉しくなる自分が嫌だった。


 いずれ決定的に傷けられる時が来る気がする。


「いいよ」


「しちゃおうよ。私、優太君とやっぱりしたいよ」


 何を言ってるの?


 あいつとすればいいだろ?


 まだ足りないのかよ。


 僕は真理の言っていることが理解できない。


「どうしたの? 変だよ。そういうのはまだ早いよ」


「無理だよ。もうすぐ私、耐えられなくなるよ?」


 何に?


 僕はもうずっと前から耐えてるよ。




 その日から、真理の態度が急速に冷たくなっていくのを感じた。


 表情がなくなり、返事は上の空だ。



 終わりの時が近づいている。



 そう感じた。



「真理。遊びに行かない? どこか行きたいところはない?」



「真理は何かしたいことある? 僕はなんでもいいよ」



「真理の絵が見たいな。どんな絵を描くの?」



 無駄だ。わかってる。



 今更そんな事をしてももう遅い。



【一橋達也;お前の彼女。お前と別れる事にしたってよ】



 一橋達也からそんなIMが届いた。



 真理からも同じような連絡があった。





「優太さん。私と付き合ってください」


 真理と別れてすぐに、彼女が僕に告白してきた。


 それもいいな。


 彼女はとても献身的で、やさぐれた僕にとても優しくしてくれた。


「最近の優太さん。笑ってくれるようになりましたね」


 彼女の笑顔に救われた。


「私。優太さんの事大好きですよ」


 少しずつ心が回復してきていた。


 味のしなくなっていた食べ物たちが、少しずつ味を取り戻し始めたころ、



 一橋達也からIMが届いた。



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