第二章 NTR幼馴染はやり直したい

第38話 Re:Start


「真理……?」


 優太君の声に目を開ける。


 あれ……優太君。

 

 どうして?


 景色はさっきと変わらない中学校の校舎裏。


 中学生の服を着た優太君。


 緊張した様子。


 昔、優太君が告白してきた時と同じシチュエーションだ。


 ……そうか。


 そこでようやく私は思いあたる。


 これは中学校の卒業式だ。


 時間が戻った?


 ゴリッ、と足が何かを踏んだ。


 ……おばあちゃんの指輪。色が変わっている。


 手を近づけると、粉々に割れて砕けた。


「真理? どうしたの?」


 優太君が近づいてくる。


「え? 真理?」


 私は思わず優太君を強く抱きしめる。


「大好き」


 二度と言えないと思っていた言葉。


「会いたかった」


 二度と触れられないと思っていた体。


「うん、僕も会いたかったよ」


 遠慮がちに腰に手を触れて来る優太君。


 もっとちゃんと手を回して欲しい。


 もっとちゃんと抱きしめてほしい。


「大好き。大好き。大好き」


 気持ちが高ぶって、感情に歯止めがかからない。


「僕もだよ真理。あのね、真理。僕と、付き合って欲しいんだ」


 勇気を出したのか、優太君の手が、私の腰まで伸びてくる。


「優太君……私の事好き?」


「うん。好きだよ」


「私も好き。大好き」


「僕も好きだ」


 ほら、優太君はちゃんと言ってるじゃないか。


 聞いてなかったのは、信じることが出来なかったのは、私の方だ。


 優太君はずっと、私しか見ていなかった。


 私の事が大好きだった。


「ごめんね。付き合えないんだ」


『641』

 

 手の平の数字。指輪はもうない。


 2年以内に私は死ぬ。


 でも、その間、優太君とお付き合いをして、一緒に同じものを見て、同じものを食べて、同じ時間を共有できたら最高だろうな。


 きっときっと楽しくて、この世に未練なんかなくなっちゃうぐらい楽しくて、ずっと笑顔で過ごせるだろう。


 そしてたぶん最後の日には、死にたくないって泣きわめいて優太君を困らせるんだ。


 だから、そんな日が来たらいいなって。


 困った顔の優太君の腕の中で死ねたらいいなって、本気で思ってる。



「優太君には私より可愛い彼女を用意するから」


「え?」


 困惑した優太君の声。


 優太君には、私なんかよりふさわしい別の彼女を用意する。


 一橋達也の手の届かない、接点のない、芸能人という存在。


「優太君。天満梨花が好きだよね?」


「てん……誰?」


「あれ?」


 そっか。こっちの優太君はまだ知らないのか。


 あんまりパッとしない女優だったけど、交差点でファンに襲われてから、それから暗い歌ばかり歌うようになって人気が出た歌手。


 マネージャーにも裏切られて、最後に自殺する。


 彼女の遺した最後の歌を、毎日優太君が聞いてたって、あさひちゃんから聞いた。


 だから、彼女をかならず優太君の彼女にして見せる。


「そのてん何とかさんより、ぼ、僕は真理がいいよ」


「ごめんね。それはできないんだ」

 

 まずは、天満梨花に会いにに行く。


 


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