第37話 side 桜田 優太




 今日は中学校の卒業式だった。


 三月末なのに、まるで春の陽気だ。ポカポカしてて気持ちがいい。



 僕は、真理に卒業式が終わったら、校舎裏の木の下で待っていて欲しいと伝えてあった。


 これから一世一代の告白をする。


 小さい頃からずっと一緒にいて、今更なのかもしれないけれど。


 はっきりさせたかった。


 真理が僕の事を本当はどう思っているのか。


 ただ不安もある。


 真理が朝から「スマホのキーボードの調子が悪い。優太君と一緒に買ったのに、どうして優太君のは壊れてないの? おかしいよ」と憤慨していた。


 そんなこと言われても困る。


 これから告白するっていうのに。


 変な断られ方しないといいけれど。



 真理は、ちゃんといるだろうか?


 いなかったら告白は中止だ。


 すこしだけ中止になればいいのにと思いながら、校舎を曲がる。


 いる。


 残念ながら。


 いや、残念じゃない。これは僕が望んだ事なんだから。


 とても緊張する。


 ゆっくりと真理に近づいた。


 彼女、は木に寄りかかって眠っていた。


 のんきだな。


 こっちは心臓が飛び出しそうだって言うのに。


 彼女はスヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立てている。


 真理は一度寝ると、中々起きない。


 どうしたらいいかな。


 そういえば今、何時だろ?


 卒業式の間はずっと電源を切っておいた。


「電源……どこだっけな?」


 買ったばかりなので、電源の位置も定かじゃない。


「あった。ここだ」


 ピロン♪ ピロン♪ ピロン♪ ピロン♪ ピロン♪ ピロン♪


 通知が馬鹿みたいに入ってきた。


「わ。ちょ……」


 真理が起きちゃう。慌ててミュートに切り替える。


 通知はIMからのメッセージだった。


 差出人は『きのりん』 


【会いたいです。会いたいでーす。あ、よかった。音声入力は反応する。これならメッセージを送れるね】

【なんて送ろうかな。最後だと思うと逆に出てこないよね】

【ええと、色々あったけど、君と出会えて幸せだったよ。君は違うだろうけど】

【なんてね。そうじゃない。言いたいことはそうじゃないよ。ありがとうってこと】

【ねえ、届いてる? 私のメッセージ】

【なんてね。届くわけないのにね】

【好きだよ。信じて貰えないと思うけど】

【後悔ばっかりだよ。後悔ばっかりの人生だった】

【そうだ。覚えてるかな? 最初にデートした場所。公園だったよね。私は覚えてるよ。犬に吠えられた私を守ろうとしてくれたね。優太君は結局泣いちゃったけど。嬉しかったよ】

【私がスイーツ苦手なのを知ってるから、スイーツ食べようって盛り上がってる皆をおいて、二人で四川料理食べにいったよね。修学旅行中なのに】


【蜘蛛の特別展示。行けなくてごめんね。断るんじゃなかった】

【月雅堂のビュッフェも断ってごめんね。行けば良かった】

【スカイツリーも行けなかったね。行けなかったところばかり】

【私の絵を見てみたいって言ってたね。見せてあげればよかったな。優太君のことも描いてたんだよ】

【誕生日プレゼントに蜘蛛のピンバッジ買ってあったんだよ。渡しそびれちゃった】

【前に、急にホッキョクグマの肌の色を聞いてきたよね? なんなのって思って答えなかったけど、実は知ってたんだ。黒だよね?】

【君が欲しがってた月雅堂のプリン。こっそり買おうとしてたんだけど買えなかった。限定50個は少なすぎるよ】

【函館山からの夜景……見てみたかったな】


【……サヨナラしようと思ったのに、全然できないね】

【ねえ。迎えに来てよ。そしたらどこにでも行くからさ】

【二度と話せなくてもいい。だからもう一度だけ会いたい】


【やり直せたらいいのにな……】

【もう一度やり直せたら、私、絶対に優太君を幸せにするから】

【ふざけてアイドルの天満梨花と付き合いたいって言ってたよね? 私。叶えるから。絶対天満梨花と付き合わせてみせる】


【なんてね……馬鹿なことばっかり考えて……】


【もう会えないのにね。人生は一度きりなのにね……】


【やり直したいな】


【やり直したいよ】


【……神様】


【『きのりん』から友達申請が届いています。許可しますか?】



「なんだこれ?」


  内容が、まったく意味不明だ。


 ブロックしようか迷ったけれど、こういうのは、逆にブロックすると危ないと聞いたことがある。


 一応、そのままにしておくか。


「……ん」


 真理が目を覚ましたようだ。


 彼女は、ぼーっとした表情で僕を見つめている。


「真理?」


 僕が声をかけると、真理は目を大きく見開いた。


 ポトリ、と、真理のポケットから指輪が転がり落ちた。










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