第21話 増えたフォロワー


「なんか、フォロワー増えてるな」


 僕はSNSアプリを日記代わりに使用している。

 

 今日も蜘蛛の餌やりを終えて、写真を撮ってSNSにアップした。


 すると驚いたことに『いいね』の通知がいきなり入った。


 見てみると、知らないアカウントにフォローされている。


 昨日までフォロワーはたったの4人だったのに、急にフォロワーが200人を超えていた。


 ……?


 ま、いっか。


 僕はスマホをカバンにしまい、学校へ出発した。


 昨日、家に帰ると天満さんから連絡があった。


 実際、動きだしているプロジェクトを止めるのは難しいという話だった。


 僕に、何かできる事は無いだろうか。


 とりあえず、何か決まったらまた連絡が貰えるはずなので、その結果で考えて行こうと思う。


「桜田優太っ!」


 校門を過ぎたあたりだった。


 突然、僕はツンツン頭の2年生に僕の名前を呼ばれた。


「……?」


 見覚えのない顔だ。顔に火傷の跡がある。

 

「俺と勝負しろっ!」


 変な人だった。


 走って逃げた。


「おい。無視すんなよ!」


 僕はすぐに追いつかれて、肩をがっしり掴まれた。


 くっ、とても足が速い。


「捕まえたぜ」


「は、離してよ」


「誰が離すかよ。おい桜田、俺と勝負しろ」


「君は誰なの?」


「俺か? 俺は2年1組の熱海一平だよ。さ。何で勝負する? お前に選ばせてやるよ」


「というか何で勝負する必要があるの? 朝礼始まるよ」


「俺は真央姫の騎士だ」


 真央姫……騎士……。

 

 なんとなく察した。


「あ、後ろに真央ちゃんがいる」


「え! 嘘! どこだよ!」


 その間に僕は逃げた。





 昼休みになって、教室を出ようと準備をしている時だった。


「よお桜田。お前、嘘ついただろ」


 熱海君がまた僕の所にやって来た。


「なんで嘘ついたんだよ」


「逃げようと思って」


「お前。素直に言うのな」


「うん。というわけで僕は行くね」


「ちょっと待てよお前!」


 熱海君は僕の肩をがっしりと掴むと、


「お前…………まさかいじめられてるのか?」


 熱海君は、僕の机に書かれた『死ね』『浮気野郎』などの文字を見て愕然している。


「一般的に言うとそうだと思う」  


「なんで消さねえんだよ」


「消すと新しく書かれるんだ」


「なるほどな。消しても書かれるんじゃ面倒だな」


「うん」


「燃えて来たぜ。書かれなくなるまで消し続けられたら俺らの勝ちだな」


「……?」


「放課後。一緒に消そうぜ」


 それから毎日、彼は来るようになった。


「よお桜田。お前の落書きなんだからもうちょっと早く学校に来いよ」


 毎朝、彼は僕の落書きを消しに通い続けた。


「やったぜ桜田! ついに俺たちの勝ちだ!」


 4日目の朝。


 ついに落書きは書かれなくなった。


 思ったよりも早く書かれなくなるんだな。


「ありがとう。熱海君」


「気にすんなって。俺たち友達だろ?」


 いつの間に友達になったんだ。


「桜田。実はお前に相談があるんだよ。聞いてくれるか?」


 恩人の言葉に耳を傾けないわけにはいかない。


「もちろんいいよ」


 熱海君は、僕を河原まで連れて行き、並んで座らせて夕日をバックにこう言った。


「俺さ。好きな子がいるんだよ」


「そうなんだ」


「槍川芽衣子って知ってるか?」


 あれ? 真央じゃないんだ。


「知らないか?」


「うん。ごめん」


「まぁ1組だからな。槍川は真央姫といつも一緒にいる女でさ。そいつがその、俺がハンカチを落とした時に拾ってくれたんだよ」


「うん」


「それからちょっと気になりだして、なんか、さ。馬鹿みたいだけど気が付いたら好きになってた」


「そっか」


「馬鹿みたいだろ」


「そんなことない。きっかけなんて、皆きっと些細な事からだよ」


「お前。いいヤツだな」


「熱海君の方がお人好しだよ。普通はいじめられてる奴の机なんて気にしないよ」


「いや気にするだろ。あそこで見ないフリをする奴は男じゃねえよ。いや、人間として駄目だろ」


「ありがとう」


「だから俺、槍川の事がもっと知りたくて、真央姫の騎士とか言って真央姫に近づいたんだ」


「なんで? 槍川さんに近づかないと意味ないよね?」


「そんな恥ずかしい事できるかよ」


「でも、やらないと」


「いいんだよ。俺の事は。でも槍川がさ。お前の名前を書いたメモを落としたんだよ。俺、カッとしちゃってさ。槍川が好きな奴がどんな奴なのか気になって調べたんだ」


「待ってよ。なんで僕の名前のメモを落としただけで僕が好きだって判断したの?」


「いや。年頃の女が、男の名前書くなんてそれ以外ないだろ!」


「そういうものかな」


「だから、槍川が好きな男がどんな男なのか気になって夜も眠れなくて、だから、お前に勝負を申し込もうと思ったんだ」


「え、なんで?」


「男って生き物は、拳で語り合わないと分かり合えないだろ?」


「……」


「だから、真央姫をかけて勝負を申し込めば受けてくれるだろうと思ったんだよ。どうせお前も真央姫の事好きだろ? 1組では真央姫ダントツで人気ナンバーワンだからよ」


「……そうなんだ」


「でもまあ真央姫は高嶺の花すぎるけどな。ガードガチガチに固いし、近づくと生徒会長が物理で殴ってくる。どうしようもねえよ。しかも、真央姫と付き合ったら1組の男の恨みを一身に背負うだろしな。諦めろ」


「どうして僕の話になってるの?」


「悪い。っていうわけで、俺はお前の事を知りたかったんだよ」


「そうなんだ」


「悪いが桜田。槍川がお前の事を好きだって言うなら、俺はお前と本気で戦う」


「戦う相手、間違ってないかな」


「でもお前ひょろひょろで弱そうだし、このまま戦ったんじゃフェアじゃねえよなって思った」


「……」


「だから俺が、お前がいっぱしに戦えるようになるまでは、鍛えてやろうと思った」


「いやいいよ。アルバイトもあるし」


「これ、トレーニング表な」


「聞いてよ」


「それじゃ、俺、行くわ。ちゃんとトレーニングしておけよ」


 熱海君はそう言っていなくなってしまった。






【天満梨花:例の件、やっぱりやることになりました。彼氏の件はいったん保留でお願いします】




 天満さんからIMが届いた。


 一週間、我慢して生活するだけなのかもしれないが、何だか嫌な予感がした。


 その予感は的中する事になるのだけれど、僕は僕でそれどころではなくなってしまった。

 

「桜田君だよね? 私、1組の槍川芽衣子って言うんだけど」


 通路で待ち伏せされて、僕は彼女に話しかけられた。


「寝取られって興味ないかな?」 



 


『大ニュース! #転生しなくても天満梨花と暮らせた件 #天満梨花』

『おい! あんまり広めるなよ!  #転生しなくても天満梨花と暮らせた件 #天満梨花』

『アイドルと暮らせるってマ? #天満梨花』

『明日から10時から受付開始だって #天満梨花』

『やば。会社休むわ #天満梨花』

『もう裸で待機してる #天満梨花』











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