第14話 生徒会からの呼び出し


 月曜日の昼休み。


 腕章を付けた3年生が教室に入って来た。


 僕は今、教室では針の筵なのでイヤホンで音楽を聴いて過ごしている。


 腕章を付けた生徒は、僕の前に来ると、耳からイヤホンを外すようにジェスチャーした。


「?」


 僕がイヤホンを外すと、


「桜田優太は君か?」


「はい……そうですけど?」


「生徒会執行委員の皆本です。ご同行頂けますか?」


「……え」


 生徒会? なんで?



「おいあいつ。なんかしたのか? 生徒会来たぞ」


「さあ。浮気して真理ちゃんにフラれたらしいから、なんかやらかしたんじゃない」


「あいつ。なんて名前だっけ?」


「桜田だろ?」


「最低だよね」



 高校に入って、真理と一橋としか付き合ってこなかったここに来て弊害がでていた。


 教室に僕の味方は一人もいない。


 間違いを正したくても、誰も僕の話なんか聞いてくれない。


 けれど、生徒会執行委員の皆本さんは、


「気持ち悪い連中だな。大丈夫か? 桜田君」


「はい」


 嬉しかった。


 僕は皆本さんに連れられて、生徒会まで赴いた。


 用件を聞いても「俺も聞かされてないんだ。会長が用事があるらしい」としか答えてもらえなかった。


 ドアを開けて中に入ると、パイプ椅子と長テーブルのおいてある部屋があった。


「会長はこの奥だよ。ひとりで行ける?」


「あ、はい」


 重厚な扉を開けると、革張りのソファの奥に、高そうな机に座ってニヤニヤしている生徒会長の姿があった。


 生徒会長はいたずらが成功したような悪い笑みを浮かべると、


「ビックリした?」


「……葵さん」


「私の事、生徒会長だって知らなかったでしょ?」


「というか、同じ高校の生徒だと思いませんでした」


「ひどいわね」


「ごめんなさい。葵さん、大人びてたのでもっと年上かと」


「良いって良いって。生徒会長の顔を知らない生徒なんてゴロゴロいるわよ。あんまり表に出ないしね」


「あ、ちなみに用って」


 昼休みの時間はあまり残っていない。


「いきなり呼んでゴメンね。実は昨日のお礼をしようと思って」


「いえ。お礼なんていいですよ」


「これ、あげる」


 葵さんは、引き出しから腕章を取り出して、僕の前に置いた。


 生徒会の腕章だった。


「腕章?」


「聞いたわよ。教室でハブられてるって」


「あ、あれは……その……」


「桜田優太が浮気して、木下真理にフラれた。昨日、桜田君に聞いた話とまるで逆の噂が流れてる。学内ではね」


「……」


「私は、どっちの話が本当か判断する材料を持ち合わせていないけど、お世話になった人にお礼をするぐらいの事は出来る。生徒会に入らない? そしたらお昼はここで食べればいいし、ここには人を噂で判断するような人間はいないわ」


「……いいんですか?」


「もちろん。嫌だったらすぐに辞めればいいわ」


 魅力的な提案だった。


 お別れしたとはいえ、教室で一橋と真理が話すのが目に入るのも嫌だったし、クラスメイトの冷たい視線も辛かった。


「お願いしたいです」


「じゃあ決まりね。よろしく桜田君。あと、私の事は葵じゃなくて一橋って呼んでね」


「ごめんなさい。それは出来ません」


「え? どうして?」


「苗字が……同じだからです」


 くだらない拘りだとはわかってる。


 全国の一橋さんを今後、全員名前で呼ぶのかって話にもつながる。


「…………誰と?」


「その……言えません」


 葵さんを、僕の個人的な事情に巻き込みたくなかった。


 迷惑をかけたくない。


「なるほど。合点が言った。君の大事な人奪ったって相手は一橋達也だ」


「……!」


「当たりね」


「なんでわかったんですか?」


「学校側は認めないけど、あいつが原因で退学になった子がいるのよ」


「退学になった人がいるんですか?」


「うん。私の友達。まぁ、彼女も悪い所はあったけど、退学するほどじゃなかった」


「……」


「何か証拠でもあればいいんだけどね。私たちは探偵でも警察でもないからね」


「証拠……」


 僕の脳裏に天満さんが持っている動画がよぎったが、あれが何なのか僕は知らない。


「ちなみにこれは秘密よ」


「だ、大丈夫です。話す相手なんていませんから」


「真央がいるでしょ? あの子、何でも真に受けやすいから、刺激の強い話は控えてよね」


「もちろんです」


「真央の事。よろしく頼むわね」


「は、はい」


「じゃあこれからよろしく。まずは最初の会長命令よ。お昼はかならず教室以外で食べる事」


「わ、わかりました」


 僕は腕章を抱いて教室に戻った。


 少しだけ嬉しさで涙ぐんだ。



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