第10話 さよなら


 やりたかった事。


 やらなくてはいけなかった事。


 ようやくわかった気がする。


 僕は、自分の部屋を出て階段を降りた。


 玄関から外に出て、


 お隣の家のインターフォンを鳴らす。


 もしかしたら一橋と一緒かもしれない。それでも構わない。


 玄関先に出てきた真理は一人。


 怪訝な顔。まるで不審者を見る目。


 僕が攻撃をするとでも思っているのか、両腕は高い位置にある。


 いつの間にか僕は、幼なじみの敵になってしまっていた。


 僕はただ、彼女を幸せにしたかった。


 けどそれはもう叶わない。全て奪われた。


 原因は僕か。彼女か。それとも彼か。


 どうでもいい。


 そんなことはもう、どうでも良いんだ。


 いつも僕が真理に伝えていたのは『好き』だとか『ずっと一緒にいたい』とか、そんな言葉ばかりだった。


 一番大事なことを伝えていなかった。


 愛してる。なんて陳腐な言葉じゃない。



 僕は、真理の名前を呼んだ。


 きっと、こうやって名前を呼ぶのは最後だろう。


 真理が僕を見る。


 僕は表情をうまく作れない。


 こういう時、どういう顔をすれば良いのかわからなかった。



「真理。力になれなくてごめん。辛かったよね。苦しかったよね。ごめんね。でもありがとう。感謝してる。真理と一緒にいれて幸せだったよ」


「…………なんで」


 真理の表情が歪む。


「真理が浮気したとか本当はどうでもいいんだ。幸せって、積み重ねたものだから。無くなったりしないんだ。今、例え酷い言葉を浴びせかけられたとしても、昨日かけられた優しい言葉がなくなるわけじゃない。だからありがとう。感謝してる。僕は幸せだったよ。それだけ伝えたかった」


 いま僕は、うまく笑えてるだろうか。


「さよなら」


 きびすをかえして家へと戻った。


 後ろは振り返らなかった。



 次に僕は、バンジージャンプをしている天満さんの写真をかべに貼った。。



『彼女に相応しい人間になる』


 僕がした迂遠で遠回しな告白は、きっと彼女に届いていない。


 でもそれでいい。


 彼女が僕に優しく接してくれたのは、同情と何かの目的によってだ。


だからまずは彼女と対等になる。

 

 でもその時、また幼なじみの時のように、彼女の隣には他に誰かいるかもしれない。


 でもそれでもいい。


 それでも決して揺るがない。


 そんな強い鋼の精神と、慈愛に満ちた優しい人間になろう。


 僕が目指す道のりは、きっとそこにあるはずだから。



 数日後、僕は履歴書を持っていくつかアルバイトの面接にいった。


 そこで僕は、BSS事件に巻き込まれる事になる。



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