第7話 浮気の証拠
天満さんとのIMのやりとりは、相変わらず毎日続いていた。
ただ、真理の件について連絡が来たのは、週明けの月曜日の朝だった。
【天満梨花:おはようございます。例の件でお話があります。お昼に屋上でお話ししましょう☆】
屋上にいくと、天満さんが元気いっぱいの笑顔で設置されているベンチから手を振っている。
念のため周りを見回して、自分だという事を確認してから手を振り返した。
「桜田さん。お勉強お疲れ様です」
「ありがとう、天満さんもお勉強お疲れ様」
「ありがとうございます。まずはご飯を食べましょう。桜田さん。お昼はありますか?」
「おにぎりがあるよ」
「それだけですか?」
「うん。節約したくてね」
「何か買いたいものとかが?」
「いや……今は特に……」
貯める理由は既に無くなったんだけど、それを言って暗い雰囲気にさせるのも悪いので黙っている事にする。
「そうでしたか。でも栄養が偏っちゃうから気をつけてくださいね」
「うん。ありがとう」
しばらく、お互いが持ってきたお昼を食べた。
「ではこのカリフラワーをあげましょう。栄養がたくさん詰まってますよ」
小分けのカップごとカリフラワーが手渡される。
「あ、ありがとう」
「あとこの葉っぱ……小松菜? もどうぞ」
「う、うん」
「オクラもあるな……今日なんか野菜多い。野菜入れすぎだよ木乃理ちゃん……というわけで、このオクラもどうぞ」
「天満さんが食べる野菜が無くなったよ」
「良いんですよ。桜田さんのためなら野菜がなくても平気です」
本当にそうだろうか。
「ところで木乃理ちゃんって言うのは?」
「ああ。一緒に住んでる女の子です。真下木乃理ちゃんっていうんですけど、時々お弁当を作ってくれるんですよ」
「そうなんだ」
二人ですんでるのかな?
天満さんの生活は謎が多いな。
IMは多いのに、滅多に校内で出会えないし。
「お茶いりますか? ジンジャーが入ってるので体の内側から温まりますよ」
「ありがとう」
お茶を貰って一息ついて、ぐるりと屋上を見渡した。
今日は普段より気温が低いせいか、生徒の数はまばらだった。
「桜田さん」
急に声をかけられて、僕は天満さんの方に振り向くと、
「実は例の件なんですが、証拠を掴みました」
「え!?」
「実は少し前から動いていたんですけど、桜田さんを巻き込むわけにはいかないので、私が独自に証拠を集めていました」
「僕を巻き込むわけにはいかないってどういう意味?」
当事者なんだけど。
「あのですね桜田さん。こう言う証拠集めって、浮気された本人がやるとものすごくダメージを受けるんですよ。だから第三者がやる必要があるんです」
「でも、天満さんは関係ないよね?」
「まだ言ってるんですか? 私たちは一蓮托生。運命共同体だって言いましたよね?」
「天満さん……」
本当にありがたい。
何度も言うけど、何でここまでしてくれるのか全然わからない。
「まあ面白そうだからってのもありましたけど」
「天満さん!?」
「冗談ですよ。今回は女子のネットワークを使って証拠を掴みました」
「女子のネットワーク?」
「はい。一橋達也は女子の『オトモダチ』がたくさんいるので、そのうちにの1人にスマホから情報を抜き取って来てもらいました」
「……それって大丈夫なの? スマホから情報を抜き取るとか」
「大丈夫ですよ。一橋もノリノリだったみたいです」
「え? 同意の上?」
「そういう事ですね」
「そんな事ってあるの?」
「あります。人間ってうまくいってる時ほど油断しちゃうんですよ」
天満さんはポケットからスマホを取りだすと、
「証拠はここに入っています。これを使って。彼女との話し合いの場を設けましょう」
「どうやって?」
「簡単です。話し合いに応じなければ一橋の動画をばら撒くぞってメッセージを送ればいいんです。これは桜田さんにしか出来ないことなので、やって貰えますか?」
「うん。それは良いけど、証拠って動画なんだね」
「そうです」
「それってどんな動画なの?」
「いえ。証拠を突きつけるのは私がやるので、桜田さんは知らなくても大丈夫です」
「でも気になるよ」
「駄目ですよ。好奇心が猫を殺すこともあるんです」
「でも……知りたいよ」
「後悔しますよ。これは絶対に。100%です」
「……じゃあ、どんな内容なのかだけでも教えてくれないかな?」
「桜田さん。悪いことは言いません。まずは私に任せてくれませんか?」
「そうだよね。ごめん」
「いえ。気になるのは凄く良くわかります。だから桜田さんが全部乗り越えて、もう大丈夫ってなったらお見せしますから。その時まで待っていてください」
「うん。ごめん。色々してくれて本当にありがとう」
「終わったらジェラートを奢ってください。それでチャラにしましょう」
「無理だよ」
そんな程度でチャラにはならないよ。
「ジェラートお嫌いなんですか?」
「いや。そう言う意味ではなくて」
「ふふ。それじゃあそろそろ行きますね。彼女の呼び出しの件。よろしくお願いします」
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