第6話 裏切り




 それから数日、今度は逆に真理から避けられる日が続いた。


 話しかけても「ごめん。ちょっと今は忙しい」「友達と約束があって」


 ショートメールで【都合のいい日を教えてほしい】と送るも返信もなし。


 意を決して家に行くと留守。



 しかしその翌日、学校に行くとクラスの雰囲気がおかしかった。


 クラスメイトの半数が遠巻きに僕を見ている。


 なんだ?


 自分の机を見て理由がわかった。


 『浮気野郎』『人間のクズ』『彼女を泣かせるなんて最低』『死んで詫びろ』


 そんな言葉がたくさんマジックで書かれていた。


「……なるほどね」


 その日は真理も一橋も、話しかけてこなかった。


 わかりやすいな。


 10年以上、一緒にいた仕打ちがこれなんだな……。




 今の僕には、相談相手は一人しかいなかった。


 毎日届く天満さんのIMに【相談したいことがある】と送った。


 返事はすぐに返ってきた。


【天満梨花:桜田さんが相談してくれるのをずっと待っていました☆】


 頼もしい返事だった。


【天満梨花:状況を教えてください】


 僕は、これまであったことを話した。


【天満梨花:それじゃあ桜田さんが浮気したって事になってるんですか?】


【桜田優太:うん】


【天満梨花:酷い。信じられないですね】


【桜田優太:でも、どうして真理がこんな事をしたかわからないんだ】


【天満梨花:浮気をしたと嘘をつかれた事ですか?】


【桜田優太:うん。僕が、真理たちの浮気を知ったことに気付いたのなら、普通に『別れよう』って言えば済む話なのに】


【天満梨花:証拠を掴まれてたら不利になると思って、世間を味方につけたんでしょうね】


【桜田優太:クラスメイトを味方につければ、僕が浮気の証拠を持ってても関係ないって事?】


【天満梨花:そういう事です】


【桜田優太:でも僕、証拠なんて持ってないのにね】


【天満梨花:でも彼女さんはその事を知らないです】


【桜田優太:僕は、真理にここまでされるようなことしたのかな】


【天満梨花:それはわかりません。けど、桜田さんは行動をおこさないとずっとこのままですよ】


【桜田優太:このまま?】


【天満梨花:このまま誤解を受けたままで良いんですか?】


【桜田優太:それは……よくないけど……】


【天満梨花:だったら行動すべきだと思います。もう関わりたくないのか、仕返ししたいのか。どちらにしても行動が必要だと思います】


 僕はどうしたいのだろうか。


 話がしたかった。


 話をして、ちゃんと終わらせようと思った。


 真理に、冷たく捨てられたとしても。


【桜田優太:ちゃんと振られようと思う】


【天満梨花:え? 振られる? 浮気したのは相手なのに?】


【桜田優太:真理は簡単に人を裏切るような人じゃない。きっと僕が何かしたんだと思う】


【天満梨花:心当たりがあるんですか?】


【桜田優太:ないけど】


【天満梨花:心当たりがないけど、きっと自分が悪いんだから振られたいと?】


【桜田優太:うん】


【天満梨花:誤解かもしれないから話を聞きたいとかじゃなくて?】


【桜田優太:あれで誤解だったらこの世界から浮気は消滅するよ】


【天満梨花:でも実際にエッチな事をしてるのを見たわけじゃないですよね?】


【桜田優太:心が僕にないのはハッキリしてる】


【天満梨花:だから振られて終わりにしたいと?】


【桜田優太:うん】


【天満梨花:わかりました。じゃあきっちり仕返ししましょう】


【桜田優太:え?】


【天満梨花:振られるなら一緒じゃないですか。スカッとして終わりにしましょうよ】


 そんなこと言われると思ってなかった。


【天満梨花:まずは証拠を掴んで、ギッタギタにしてやりましょうよ。数日ください☆】


 彼女から再び連絡があったのは、週明けの月曜日だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る