女は怖い

 キュアはヒールの傷を治す魔法ではなく、毒や麻痺等の状態異常の回復に効果がある魔法である。

 その為夏希のお母さんが、自分の意識とは関係なく筋肉が衰えたのならば、弱体化の状態異常に近いと考え治せるのではと思ったのだ。


 「効果あるのかは分からないけど、治るかもしれないから一応やってみて。やった事ないから期待はしないでね」

 「うん。分かった。やってみる」


 効果は分からないと念押ししたので、夏希も期待しすぎず軽く受け流すように聞き入れた。だがそんな様子とは反対に、掌で小さくキュアの練習をしながら少しにやけている。

 お母さんと遊びに行く所でも考えているのだろうか。早く家族で過ごせたら良いのだけど。


 「二人共聞いてた?」


 横を向いて夏希見つめていると、いつの間にか僕の目の前には美雪先生が立っている。


 「「聞いてませんでしたー」」

 「ちゃんと聞いてください」

 「はーい」


 僕達は子供のように返事をすると、美雪先生にメッ!とされてしまった。

 子供扱いする時の美雪先生めちゃくちゃ可愛いです。一生怒られていたい。


 「もう一回言うからね。特進クラスに病気がちで来れなかった子が、今日から来れるようになったから仲良くしてください」

 「「はーい」」


 一度言われていて聞きたい事もあったのに、お世話を託された子の存在を完全に忘れていた。


 僕は前世から、完全記憶能力を持っている。だがこの能力にも欠点があり、見た事全て覚えるのではなく、覚えようとした事を覚えるのだ。

 だから適当に流し見しているテレビの内容は、魔力で脳を強化されている分を省けば普通の人達と変わらない情報量しか入っていない。


 他にも思い出そうとしないと思い出せない欠点がある。

 昨日勉強した事は思い出せても、今回のようにクラスに新しい子が来たと情報は蓄積しているが、その情報を思い出そうとしないので思い出せないのだ。

 分かりにくいが、寝ている時に周りから危険な音がしたら目を覚まして撃退すると記憶したとする。

 だが寝ていて実際に危険が迫っても、脳は考える思い出す事をしないので反応せずそのまま襲われてしまう。

 つまり無意識下または、記憶の導火線がないと思い出せないのだ。

 その為今日何があったかなと思い出そうせず、美雪先生にお願いされた子が来る事を忘れていたのだ。


 「美雪先生質問!」

 「何でしょう」

 「その子は白髪の女の子ですか?」


 教卓へ戻った美雪先生へ、僕が大きく手を上げて質問すると、周りの空気が急に冷え込んでくる。まだお昼なのだが北海道ダンジョンの雪原のような寒さだ。


 「ねぇ、ハルト君、どうして気になるの?」


 美雪先生の顔は暗く、スっとハイライトが消えたのが分かった。そして似た感覚が横からも感じ、ギギギと錆び付いた鉄製品の音がなりそうな程にぎこちなく首を動かすと、全く同じ表情をしている夏希がいた。


 「ヒィィィ!あっいや、リアムの話の中に、全然幼稚園に来れない子が居るって言ってたから、その子かなーって」


 恐る恐る答えさせてもらうと、夏希は全く変わらない表情でジリジリと顔を寄せてくる。その姿はホラー映画のワンシーンのようだった。


 「その子だったらどうなの?どうせ可愛い子が居るとかでしょ。クソリアムが」


 夏希はパッと手を離し椅子に座り直し、普通の怒った時の顔に戻って質問しつつ、リアムに暴言を吐いた。


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二話 転生特典は「愛情」と「美食」でおねがいします 修正しました。気になる方は読んでみてください。大きく変更はしていません。


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