お姫様抱っこは定番

 「ハルト君!もうお昼だよ。起きて」


 とても良い夢を見ていた気がする。あまり思い出せないが、数人の子供達とその仲間に戦い方を教え、家に帰ると美雪先生や夏希に白髪の少女、実子のように育てた弟子が出迎えて来る。

 その後リビングに向かうと、家族がご飯の準備をしていておかえりと言われる夢だ。

 その有り得ない風景に、何故かノスタルジックな気持ちになる。

 段々と記憶は薄れていく。数分後には何も思い出せないだろう。


 「早く起きて!ご飯食べる時間無いよ」

 「んー。美雪、食べるー」

 「え!?こんな所で何言ってるの!?」


 気持ち良く揺らされていたのだが、急に力が無くなり目を開けると僕の目の前に、顔の赤い美雪先生が正座をして見下ろされていた。


 「良い夢だった気がするけど思い出せない」


 布団に潜って恥ずかしい顔を隠し、気持ちが収まるまで待っているつもりだったのだが、いつの間にか眠ていたようだ。

 会議室に置いてある時計を見ると、あと十分でご飯後のお昼寝が終わり、午後の勉強時間に入ろうとしている。


 「ご飯どころじゃないじゃん!もっと早く起こしてよ!」

 「ハルト君夢の中で私とそんな事を・・・」


 美雪先生は惚けて別の世界に居り、僕の八つ当たりを全く聞いていなかった。


 「何意味分からない事言ってるの?今すぐ特進クラスに行かなと遅刻するよ!」


 どれだけ声掛けても微動だにせず、仕方なく肩を掴んで揺らした。すると見つめる目はしっかりと現実に戻ったのだが、頭の中は半分程に置いてきたままだった。


 「はぅぅ。抱きしめられるぅ。あの初めてなので優しくして」


 時計を再度見ると、勉強時間まであと五分になっており、かなりの切羽詰まっている。

 最終手段として少しだけ我慢してもらい、弱チョップをおでこに打ち込んだ。


 「痛!?ハルト君急に何するの!?」

 「時間!あと五分!」


 そう言って指さした時計は、非情にまた分針が進んだ。


 「え!?お昼前に来たのに!?ご飯抜きじゃん!?どうしよう早くしないと!」

 「取り敢えず準備して!」

 「分かった!」

 

 ガチャガチャとファイルやプリントに筆記用具を集め、走ってギリギリぐらいの時間に準備を終わらせる事が出来た。その集めたファイル達を収納魔法に入れて、園長先生にまた怒られながら走って職員室出る。


 「美雪先生止まって」

 「え!?でも早くしないと」

 「良いから」


 少し通路を進んだ所で強制的に焦る美雪先生を止めて落ち着かせた。


 「今から驚かせると思うけど静かにしててね」


 指を口に当てて静かにとジェスチャーをし、美雪先生は首を傾げつつ僕の真似をして指を口に当てた。


 「ちょっと座って」


 何するか分かっていないが、言われた通りに美雪先生は動いてくれるおかげで、やりたい事がスムーズに出来た。


 「ハルト君すごい!」


 お尻とで太ももの間に手を入れ、体を倒してもらいお姫様抱っこをしたのだ。何とかだが、美雪先生のサイズが小さい事もあり、腕の長さがギリギリでお姫様抱っこを成功させた。


 「舌噛むからちゃんと口閉じてて。インビジブル」

 

 僕達に無属性のインビジブルを使って体を透明にし、風魔法のエアで壁を作って風圧を無効化。安全を期して新幹線並のスピードで一気に特進クラスまで駆け抜けた。

 


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 美雪先生はお昼ご飯を食べる前にハルトを起こしに来て、ずっと時間を忘れ見つめていたのでした。



二話 転生特典は「愛情」と「美食」でおねがいします 修正しました。気になる方は読んでみてください。大きく変更はしていません。


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