指輪のプレゼント

 命令を厳守させようと頑張る夏希の姿が、逆に妹のようで可愛くすら見えてくる。

 僕は弟子を拾って親になった時の記憶が蘇り、当時と同じ思いで頭を撫でた。


 「はいはい。何でもしますよー」

 「何かその表情ムカつく」


 僕の対応する顔に腹を立てていても、小動物が威嚇しているように見える。

 気にせず撫でていると、我慢の限界に達した夏希は僕の手に噛み付いてきた。

 モンスターを倒し魔力が増加している為、ただ普通に生活していても多めに露出して、素の力が強くなっており、夏希からしたら普通に噛み付いただけなのだろうが噛みちぎられるかと思う程の威力だった。


 手の痛みに戦闘に慣れた僕の体が反射で、そこそこの勢いが乗った拳を振り下ろしてしまった。咄嗟にスピードは緩めたがお説教を兼ねてある程度痛みが出るように調節する。


 「イタッ!何すんのよ!」

 「お前が魔力を込めて噛むからだろ!食い千切ちぎられるかと思ったわ!」

 

 たんこぶが出来る程強くしていないが、一応腫れてるか確認後ヒールをしてしっかりとお説教をした。


 「夏希はモンスターを倒して魔力量が増えたんだから、露出する魔力を調節しないと周りに迷惑かけるよ。友達を怪我させたり物壊したり危ないからしっかり練習するように」


 僕が真剣に怒るものだから夏希はかなりへこんでしまい、少し前まで元気は遥か彼方に消えてしまった。

 顔には生気がなく尋常じゃないへこみ方に、やり過ぎてしまったと自分に反省し、僕は叱った者としてアフターケアまで全うする。


 「知らなかった事だし仕方ないよ。一緒に練習するから、ね!僕も言い過ぎてごめん」

 「ごめんなさい」


 夏希はミサトに鼻を折られた時ですら目を潤わせるだけだったのだが、今回はお説教しただけなのに今にも泣きそうになっており、僕はテンパってどうしたら良いか分からなくなってしまった。

 思考がぐちゃぐちゃでまとまらず、何か喜ぶ物をと収納魔法の中から漁り、取りえず女性から人気の高いアクセサリー系統で、ちょうど良い物が見つかったので夏希の手の中に入れて押し付けた。


 「泣かないで。これあげるから、ね!」

 「これ何?」


 夏希は受け取った小さい物を手を広げて確認すると、中身は赤い宝石の付い指輪だった。突然の指輪で夏希は情報処理が出来ておらずで、キョトンとした顔で首を傾げている。


 「指輪?」

 「そう指輪。この指輪は魔力を漏れないようにする魔法が付与されてて、今の夏希にはピッタリだと思うから使って」

 「貰って良いの?」

 「そりゃもちろん。だから泣かないで」


 夏希は零れかけた涙を吹きやっと笑顔が戻ってきてくれた。

 泣かれたら罪悪感で押しつぶされそうだったから笑ってくれて良かった。女の子の涙は見たくないからね。嬉し涙は除く。


 夏希は嬉しそうに左手の薬指に嵌めると、サイズが見るからに合っておらずブカブカだった。みるみる笑顔が失われて顔に色が消え暗く病んでいるかのようになった。


 「大丈夫だからね。調節するから。アジャスト」


 僕は物のサイズを調整するアジャストの魔法を使うと、大きかった指輪のリングが小さくなり夏希の指のサイズピッタリになった。

 そしてついでに無くした時に戻って来るように転移魔法と、夏希しか使えない封印魔法まで付与した。


 「ほらピッタリ。一緒に夏希用で魔法かけといたから」


 夏希はサイズが調整され驚きつつ、指に嵌められた指輪を下を向いて眺め、少し小さな声で質問する。


 「この指輪どうしたの?」

 「そりゃもちろん作ったんだよ」

 

 この指輪は社長と会う前におままごと作った物で、宝石が綺麗で適当に魔法を付与し、長い間収納魔法の肥やしになって使われない可哀想な子の一つだ。

 こんな所で生きてくるなんて思いもしなかった。使ってもらえて良かったな多分指輪五十号くらいよ。



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