二代目の先生

 二ヶ月後彼女は一人での外出許可が降り、私の元に尋ねてきた。


 「お久しぶりリン」


 久しぶりに顔を見せた彼女は、前回の時のような辛そうな表情では無くなりスッキリとしていた。


 「元気そうね」

 「その節は失礼しました」


 ぺこりと頭を下げて謝罪した彼女は、唐突に私の羽の中に潜り込んできた。


 「暖かい。リン、あの時の助けてくれてありがとう」

 「どうしたのよ急に。それに珍しい事して」

 「私をあの日の記憶があまり無いの。一応あるんだけど、本当にあれは自分だったのか。夢だったんじゃないか。全く現実感が無くて記憶がふわふわしてるの。でもリンが私をこの羽で抱きしめ撫でてなぐさめた事だけは凄く記憶に残ってる。多分あれがなかったら、ずっと立ち直れなかったのかもしれない。そう思ってお礼を言いたくて来たの」

 

 恐らく脳が、自分を助ける為に辛い記憶を薄め、逆に私に助けられた記憶を強くし、心の支えにするように変化させたのだと思う。

 生存本能は、大事なものなんだと考えさせられた。

 大きく美化されていても、助けられたという実感が湧きその言葉は嬉しかった。


 「別に良いわよ。すぐ死んだら勇者先生ハルトに怒られそうだからしただけだし」

 「相変わらずリンは素直じゃないんだから」

 「あんたは黙れない訳?」

 「ごめんなさーい。リン、大好き」

 「私も勇者先生ハルトの次くらいには好きよ」


 私達は二人で見つめあって大笑いをした。

 いつもは言い合いをしたり、喧嘩もよくしていたのに今は彼女と一番仲良くなった。

 代償して大きな、大き過ぎる人を失ってしまったけど、いつか一緒に話す時のお土産に持って行ける良いネタが出来た。

 だがまさか数年後に会えると思っておらず、更に溜まった感情が爆発して柄でもなく甘えてしまい、一生の恥として心に残るとこの時は思っていなかった。


 「これからあなたどうするの?今度は一人で旅に出る訳?」

 「うーん、それは無いかな。リンには会えなくなるし、しばらくはあの街に居座ることになると思う。特にやる事も無いし、モンスターを狩りながらぼちぼち決めようかな」


 何も決まっていないらしいので、私は一つ提案をした。


 「じゃあ今度はあなたが先生をしたら?」

 「私が?」


 彼女はポカンとした顔で私を見ていたが、この提案にはちゃんとした理由がある。

 性格的に真面目で投げ出したりしない彼女は、何か大きな事を頼んで力を一つに絞らせ、ふと精神が不安定になる事を防ぐ為だ。


 「いつか魔王が復活して、皆が少しは抵抗出来るようにあなたが勇者先生ハルトの跡を継いで、先生になって教えるの」

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