後追い

 僕は話の途中から怒りと後悔を感じていた。

 魔王のエルフ達への残虐非道な行いと、何度もごめんなさいと謝っていたのにあの子を信じなかった事に怒りを。

 もっと僕を信頼し、過去を打ち明けてくれる程距離を縮められなかった事と、魔王を殺せなかった事に後悔を。


 「それでどうなったんだ」


 僕はまたリンを傷付けないように、感情を心の中に押し込んであの子の話の続きを聞いた。


 「その気持ちも分かるけど、ハルトまで血を流してどうするの」


 視線の先には僕の手があり、いつの間にか拳を強く握りしめていたようで、爪が掌に刺さり血が出ていた。

 リンはそんな僕の両の手を取って前に出し、回復魔法を使って治してくれた。


 「ただでさえあの時の血を思い出して、気持ち悪いのに血を出さないでよ。それに爪で傷付けるの二回目よ。ちゃんと切りなさい」


 リンは優しく笑みを浮かべ冗談を言っていた。


 「ごめん。それであの子は大丈夫だったのか?」

 「ええ、もちろんよ。ナイフを吹き飛ばした後何するか分からなかったから気絶させたわ」

 

 私は彼女を気絶させた後、ナイフを回収し体の上で寝かしてあげた。

 聖属性の魔法で心を整えて、しばらく様子を見てあげた。


 ナイフが入っていたバックの中に、これ以上危険物入っていないかと思い漁ろうとすると、中には数個の白いふわふわが入っていた

 その子達は、勇者先生ハルトと一緒に行動していた微精霊達だった。


 話を聞くと自決を繰り返す彼女を、死なないように治癒し続けたのはこの子達だった。

 魔法で無理に眠らせようとしても抵抗されて出来ず、どちらとも危害を与える事は絶対にしないので一緒に居て回復魔法で治すしか無かったらしい。

 微精霊達はとても心配しており、気絶させた事に感謝された。

 勇者先生ハルトが死んだ後、直ぐに後を追いかけてしまっては顔向け出来ないと、見守ると決め仲間の元から抜けてきたと言っていた。


 彼女をここに居させても血を作る食べ物が無く、血を出されたら死んでしまうと思った私は、気絶している状態のまま運び山を降りる。

 そして大っ嫌いな人間共が居る街に向かった。

 街に着くと人間共は、しょぼい武器を構えて威嚇してきたが、そんな事は気にせず一方的に話をした。


 「勇者先生ハルトの大事に育てた彼女が自殺しないように見守って欲しい」


 私は本当に大っ嫌いな人間共に頭を下げてお願いをした。

 その街は勇者先生ハルトの話に一番出てきて、二人が気に入っていた街だ。

 街の人達も二人を好意的に思っている事は知っていたので、引き受けてもらえると分かって頭を下げたのだ。

 案の定直ぐに受け入れてもらえ、彼女は人間共の支えで無事に精神が安定し元気になった。

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