罪の意識

 私は言葉が出なかった。

 魔王は勇者先生ハルトが勝てない事を見越して、勝ち戦をしようとしていたからだ。

 その勝ち戦に加え、用心深く彼女を使い負ける確率を限りなくゼロにしてまで。


 「それは戦力的に勝てないの?それとも物理的に?」

 「物理的に勝てないって。どれだけ刻まれても、細胞一つ残らなくても、この世界にいる生命体では種族のランクが低いから、消滅する事は無いって。もし体を破壊しても生き返って数年後にまた殺しに来るって言ってたの。そして私がいうことを聞かないと、全ヒューマン(エルフや獣人も含む)を殺し、上位種とモンスターだけの世界にするって。でも私が結界を貼れば殺さず生かしておくって言われた。だから一生生き返って襲って来るならって、先生とヒューマンを天秤にかけた。だから先生は私が殺したの!」


 彼女は最後、自分に行いを認識させるよう強く殺したと言った。

 私はわざわざ助けたい両方のどちらかを天秤にかけ、選ばせようとした魔王が凄く憎かった。

 彼女が心を入れ替え勇者先生ハルトを愛し尽くしている事と、二人で悪を滅し善を救う為に世界を回っていた事を知っていたから。

 魔王はなんて残酷な事をしたのだと憎くて仕方なかった。


 泣き続けている中で一番感情が荒れ、精神が崩壊しそうになっている彼女を、あなたは悪くないと抱きしめた羽で撫で続けた。

 だな一向に落ち着く事は無かった。


 涙を止めないまま、私の胸を押して体との間に距離を作ろうとしたので、羽の力を抜き空間を作ってあげた。

 そして体が自由になった彼女は、私の羽の中でバックからナイフを取り出し、自分の左胸にある心臓へ向かって突き刺した。


 傷口からは血液が吹き出すことなく、ゆっくりと流れ出て私の羽を赤く染めていった。

 彼女は一度ナイフを引き抜き、また同じ場所に目掛けて突き刺した。

 そして何度も何度も、突き刺し抜き突き刺し抜きを繰り返していた。


 「何してるの!」


 私は突然の事ですぐに動けなかったが、彼女が持つナイフを吹き飛ばして止めさせ、回復魔法を使おうとした。

 けれど傷口はすでに無くなっており、綺麗に治癒された後だった。

 

 間近で見ないと血で分からないが、刺した所にある破れた跡が服全体に何個もあった。

 それで私を血まみれで尋ねた事と、刺した所から想像以上に血が出なかった理由が分かった。

 彼女は自分の罪の意識に耐えられず、何度も死のうと自分を刺して治ってを繰り返し、体内から血液が出なくなるまで行っていたのだと。

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