名無しの最強が勇者先生と呼ばれるまで

 「任務は最強と名高く、悪を許さず一人で戦い続けている勇者と呼ばれる、冒険者の弱点を探し隙があれば殺す事だった。

 任務遂行の為に私は自分で体を汚し、服を傷付けわざと怪我をしてその冒険者に拾ってもらった。その人は私を大事に育ててくれて、魔法を教えて貰いながら一緒に旅をしたの」

 「その時に私に会いに来たのよね」


 私はこの子が、初めて会いに来た時の事を良く覚えていた。


 名無ハルトしが勇者と呼ばれるよりも前の十五歳くらいの時に、一緒にひっそりと暮らしていた戦いを好まない母が、人間共に攻撃され怪我を負った所を、辞めるように説得し助けて貰った事があった。

 その日私は名無ハルトしに興味を持ち、外の世界の事を知らないからたまに遊びに来て欲しいと嘘のお願いをした。


 名無ハルトしはしっかりと約束を守り何回も来てくれていた。

 毎回私の安否を確認して、人との関わりを絶っているせいで代わり映えせず、面白さの欠けらも無い戦闘の話しを何度も聞かされた。

 それでも名無ハルトしと居れる事が嬉しくて、また来てとお願いした。


 初めて会ってから五年くらい経ち、あるエルフ女の子を連れてきた。

 その子は勇者ハルトの事を完全に信用しておらず、疑いの目を向けていた。


 そんな事を知ってか知らずかは分からないが、戦闘の話しかしなかった勇者ハルトが女の子の事をずっと話すようになり、親バカと変貌へんぼうしていた。

 そして人と関わりを絶っていたのに、少し話すようになったと言った。


 ほとんど女の子の事しか言わず、最初は面白かったのだが同じ話が三回目くらいになってから、前と同じように面白くなくなった。

 これからはずっとこの話が続くと思うと辛いが、勇者ハルトが女の子のおかげで変わりつつある事に嬉しく思った。

 本当は少し前に、寿命で亡くなった母を傷付けてから嫌っているヒューマン(エルフや獣人も含む)なのだが、特別に女の子も勇者ハルトに連れてきて良いと許可を出したのだ。

 その為勇者ハルトを変えてくれた女の子として強くて記憶に残っていたのだ。


 「初めてリンと会った時はまだ先生を殺害対象として狙っていた時だね。その時も含めてずっと純粋な子供を装って殺そうと、寝込みを襲おうと深夜に起きたり、戦っている時に失敗したていで攻撃しても直ぐに気付かれ、ちゃんと狙えよと言われていた。そのまま一度も隙を見せてくれる事は無く殺せなかったの。

 その人は名前が無くて、魔法を教えてくれるから先生と呼んでいた。するといつも一緒にいる小さい女の子が、先生先生と着いていくから私達を見た人は、勇者先生と呼ぶようになっていったの。

 そして壁を作り、人と関わりを絶っていた先生に声をかける人が多くなった。人当たりを良くしていたので、先生へ私の事を心配して話に来る人も居て、会話をするしかなくなっていた。そこから特定の人と仲良くなるような事は無いが、他人と話すようになり私の話を酔った勢いで、色んな人に自慢するようになっていったの」

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