弟子の裏切りの理由

 小さく何かをつぶやきリンは再度僕の横に座り、一人にしてしまった弟子の三年間を教えてくれた。




 勇者先生(転生する前のハルト)と魔王との戦いが大爆発を起こして相打ちで終わり、数時間程経った後だった。

 彼女は砂埃すなぼこりを付け、全身血まみれで泣き何度もごめんなさいと言って謝りながら私を尋ねて来た。


 「あんた大丈夫なの!?」


 私は傷まみれだと思い、急いで回復魔法を使って治癒させようとした。

 けれど体には反応が一つも無く、血が着いているだけで完全に回復された後だった。


 「私が先生を殺したの。私は大事な先生へ恩を死で返したの」


 私は泣き続ける彼女が泣き止み、落ち着くまで抱きしめて待ち続けた。


 「何があったの?」


 絶望より更に深く闇の真っ只中に落ち、生きているのか死んでいるのか区別がつかない程青ざめた顔の彼女は、ポツポツと語り始めた。


 「私は先生に会う前は、森の中にあるエルフの村で皆と一緒に生活してたの。でもある日魔王が沢山のモンスターを連れて村を襲ってきた。抵抗したけど、十分の一にも満たない村の皆は数に負けて呆気あっけなく捕まった。

 全員を縛り上げ子供と女の人を一緒に、男の人を別に牢屋のような所に入れられた。そして見せしめだと言って、魔王は男の大人達の牢屋に魔法を放って燃やしたの。一人の骨すら見つからないかった。抵抗をしたらこうなるぞって言って脅してきたの」


 だんだんと声が震えていき、思い出してまた彼女は泣いてしまった。

 大事な人を殺してしまう程、追い詰められていたから何か裏があると分かっていたが、思っていた以上に酷い過去を持っていてた。

 その後は想像通りの展開だった。


 「生き残った皆は、いつ殺されか分からないから素直に命令に従った。奴隷のように働かされて倒れる人も数人いたの。

 そんな生活が始まって数ヶ月過ぎた時、子供達は集められて魔法の実力を試させれた。魔法を上手く使えれば待遇が変わると思って皆全力で魔法を見せた。そして一番上手だったのが私だった。

 私だけ違う場所に連れていかれたの。これで仕事が楽になってご飯が多く食べられると思ってた。実際にしばらくの間はご飯を沢山食べれて、仕事は魔法の訓練になって楽だった。私だけ特別扱いされて申し訳なかったけど、生きる為には仕方ないって割り切って生きていた。けどある日魔法の訓練は無くなって初めて訓練じゃなくて任務が言い渡された」


 僕はその任務がどんな内容だったのか直ぐにピンときた。


 「それが僕を殺す事だったのか」


 リンは首を縦に振り肯定した。

 そしてまた話の続きを語る。

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