鈍く使えない最強
何故かリンは、前世で僕が死んだ後の知るはずのない弟子の事を、落ち着いた様子で語った。
「なんで僕が死んだ後の事を知ってる。それにあいつが泣いてたって」
「私は前の世界でハルトが死んだ後の三年間、アンデットと戦った時に剣を出すまでの記憶があるの」
「もっと早く言ってくれても良いじゃないか!」
「一度も私に聞いてないじゃない!それに弟子の事で悩んでるって知らなかったのよ。遅くなってごめんなさい」
リンは申し訳なさそうに謝った。
確かに一度も弟子の事を言っていないし、リンはこの世界からの事しか知らないと思い込んでいた。
もうずっと分からないと思っていた、前世と弟子の情報が思いがけない所からが出てきてくれて嬉しかった。
そして弟子が涙を流していたと聞き、思い立っても居られず横に座るリンの肩を掴んだ。
「あの子はなんで泣き、なんて言ってたんだ!」
溜まった思いを抑えずそのままの勢いで質問のすると、リンは僕を押し飛ばして離れさせ掴んでいた肩を押さえていた。
掴んでいた部分には少しの血が流れ落ちていて、僕の爪の間には血と皮膚が詰まっていた。
「ごめん。大丈夫!?」
僕の頭はぐちゃぐちゃになり、オドオドとしてしまい声をかけるしか出来なかった。
その姿は奥さんが料理を作り、その間にご機嫌を取ろうと手伝おうとするが何をしていいか分からずうろつく、邪魔な旦那さんのようだった。
キッチンは包丁使うから料理を手伝うんじゃなくて、洗濯物を手伝ったり部屋を片付けたりしてくれた方が嬉しいから気をつけるように。
※作者の感情が通りました。
リンは心配する使えない僕を無視し、回復魔法で肩を治してため息をつく。
「ちょっとは落ち着きなさい。色々言いたい事あるけどまずは綺麗にして」
「かしこまりました」
僕は汚れを落とす生活魔法のクリーンを使い、体に巻いてあるバスタオルまで垂れた血の跡を完全に消し綺麗にする。
「ありがとう。あと一つあるんだけど、そろそろ着替えさせてもらって良いかしら」
「はい。すみません」
リン様はとても冷たい対応になり、僕は精神的ダメージを喰らってしまった。
流石にこれは酷い。
洗面所に着替えに行き、少しして出てきたリンは弟子のお気に入りだった服を着てぷりぷりと不機嫌そうに向かってくる。
その姿は笑顔でないものの綺麗で似合っており、スタイルが良くスラッと伸びた手足を邪魔しないシンプルな服と相性が良く、心の声が漏れてしまう程だった。
「似合ってるな」
「ありがとう」
数秒前まで不機嫌だったはずのリン様はいきなり嬉しそうに笑ってくれた。
よく分からないけど機嫌直してくれて良かった。
寿命が縮まるかと思った。
「確かこの服ハルトが誕生日に買ってあげたやつよね」
「そうだったかな?でもお気に入りだった服に間違いは無いよ」
「なんで気付かないのかしら。本当に鈍い人ね」
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