前世の意味とリンの心
優しいリンに支えられ、数分間泣いたところでやっと心が落ち着いた。
冷静になり、バスタオルを巻いた女性の腕の中で泣く僕という状況を理解しとても恥ずかしくなった。
更にそれがただ女性ではなく、過去の僕を知る古い知人という事実が一番の恥ずかしい点だ。
いい歳のおっさんが何しているのだろう。
「ごめんな。一応元最強だったんだけど全然だめだね。だっさいなぁ」
こんな惨めで酷い状態の僕へリンは優しく語り始めた。
「私ね、昔あなたの事少しだけ避けてたの。あの時は一人で全部出来て、助けは要らない完璧な人で何かしたら逆に迷惑をかけてしまうって。だからあなたに恩を返せなくて辛かったの。でも久しぶりに会った姿は、かっこ良くて頼りがいのある勇者様じゃなかった。一人では何も出来ない、小さくて弱くて情けない男の子だった」
「そうだな。情けないよな」
「情けないよ。私を助けた勇者様はどこに行ったのかしら。でもね、だからって軽蔑しないし何も変わらない。ほとんど力を出せなくても、誰かを守る為に無理してるあなたは、どんな姿になっても変わらない。小さくても情けなくてもダサくない。ずっとかっこ良いままよ。こんな時しか頼る事無いのだし、ずっと一緒に居るから存分に頼ってよ。私に恩を返させて。私のカッコ良いご主人様」
「リン・・・」
僕はずっと勘違いをしていた。
リンは誇り高いドラゴンだ。
だから最強の僕を慕っていたのだと思っていた。実際にただの人間は下に見ていると思う。
リンに久しぶりに会った時、アンデット達との頼りない戦いをした後だった。
最強じゃなくなった僕には興味無くなり相手にして貰えないと思った。
だが実際は一緒にいてくれた。
でもそれは昔助けたからで、いつかは居なくなるのだと勘違いしていた。
リンが一緒に居てくれるのは、最強の僕じゃなくて僕自身だと言ってくれた。
その言葉で前世の行いが全て無駄だった訳では無く、リンに会う為だったと一つ目の生きた意味が出来た。
本当にリンに会えて良かった。
「ありがとうリン」
「いいのよ。好きなだけ私や皆に甘えなさい。今のハルトの周りには沢山愛してくれる人がいるわ」
フェストとラウは僕と目が合うと首を縦にふり頷いてくれた。
こんなに僕を心配して、助けてくれる人達がいるなんて今世は幸せ者だ。
「皆ありがとう」
「ハルトに何があったのか教えてよ。嫌だったら良いけど前世の事なんでしょ。私とフェストは何も知らないから色んな事教えて欲しいの」
ラウは立ちっぱなしの僕とリンの手を取って引っ張り、ベットに座わらせて話を聞こうとしてくれた。
そしてフェストは、座った僕の太ももの上にちょうど良いサイズになって乗り頭を胸へ擦り付けてくる。
「僕にも教えて!」
「分かった。全部話すよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます