美貌と蓋をした記憶

 しばらく時間が経ち、指がふやけてシワシワになっていたので湯から上がる事にした。

 浴槽からでて部屋に戻る前、短い間お世話になった露天風呂に別れを告げる。

 

 「クソお世話になりました」

 「何してるの置いてくよ」

 「はいはい!」


 僕は生活魔法で全身の余分な水分を飛ばし、ボディークリーム塗る。

 本当はボディークリームを付けなくても十分なのだが、今世のこういった美容に関係するものはとても効果があり、想像以上に効果を出してくれる。


 前世での女性達は魔力を使って体を覆い、自然治癒能力を強化して新しい細胞へ変える事で美貌びぼうを保っていた。

 そのおかげで今世と比べても、化粧水等で肌の手入れをしていないのに、見た目に変化はあまり見て取れない。


 逆に前世は見た目に興味なくガサツで、男と混ざって殴り合いするような人女性でも、魔力を覆って戦闘するので勝手に肌が綺麗になっていたりする。

 

 そんな世界で生き日常的に魔力を覆う僕が、化粧水やボディークリームを使ってみると相乗効果で、もっちもちの綺麗で調子が良すぎる肌を手に入れる事が出来たのだ。


 初めて冬の時に、お母さんから塗られた時は驚かされた。

 それから僕はいつでもボディークリームや、顔に使うオールインワンジェルを収納魔法に入れている。

 見た目を維持するのも大変だよ。

 パックとかはしないので塗ってるだけなんだけどね。


 ボディークリームを塗り終わって、戦闘用の動きやすい服を着込み退屈している皆の元に向かう。

 するとリンは何故かバスタオルを体に巻き、濡れた髪を乾かしながらベットに座っていた。


 「ハルト遅い!寒いんから何か服を出してよ」

 「あっそっか。ごめん気付かなかった!」

 

 リンは進化し人化してしまい、着れる服が一枚もなくバスタオルのみで待っていたのだ。

 僕は急ぎ収納魔法から良さそうな服を探していると、懐かしく今のリンにピッタリ合いそうな女物の服に気が付いた。


 「これでいいか?」

 「良い服あるじゃない!もしかしてあの子の?」

 「ああそうだ」


 僕が過去であった記憶の奥底に仕舞い込んだ記憶。

 思い出したくない記憶だ。


 「ハルトなんで泣いてるの」

 「え?僕泣いてる?」


 僕の頬からはいつの間にか涙が伝いポタポタと落ちていた。


 「あれ?なんでかな?涙が止まらない」


 蓋をした記憶は、少し空いた拍子に全部飛び出てしまい一気に溢れ、体に引っ張られた幼い精神では耐える事は出来なかった。

 泣きじゃくり情けない姿の僕は、ベットから立ち上がったリンにそっと抱きしめられ、濡れたバスタオルを更に濡らしていく。


 「やっぱり私が居ないとダメねハルトは」

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