暇なお兄ちゃんの心残り

 ハルト達が拳で殴り合っているの所を俺は優雅ゆうがに椅子に座って眺めていた。

 

 「皆凄いな」


 ハルトは言わずもがな、夏希ちゃんは僕ではギリギリと言われたゴブリンロードを何体も瞬殺して回っている。

 フェストもありえない速さで走り回り、手当り次第にゴブリン達を刻み続けている。

 そして一番やばいのはハルトが連れてきた剣になるドラゴンのリンだ。

 最初は子ドラゴンだったのだが、戦闘になると大きくなり一匹で近距離と遠距離両方無双していたのだ。


 そんな中、僕がやってるのは魔法で適当な雑魚狩りだ。

 ゴブリンロード以外で、相手になりそうなのは一匹も居らず暇しながら、時々夏希ちゃんの危なそうな所をフォローしているくらいだ。

 動く事も無いので椅子に座って魔法を操作して適当に遊んでいる。

 戦い初めは頑張っていたのだが、雑魚狩りという流れ作業で眠たくなってきていた。


 仕方なく解体ナイフで魔石を取り出し、ドロップ品をマジックバックに入れている。

 それも最初は良かったのだが飽きてきて、魔法で魔石を取り出せないのかと考え始め始めた。

 これがなかなか難しく、失敗ばっかりだったのだが最終的には上手く取り出せるようになった。

 まず、初級風魔法のウィンドを刃物のように鋭くして撃ち、胸に魔石までの穴を開ける。

 そこからウィンドの魔法を形状変化させ刃物状から一点への風圧を強くなるように変更し、俺の方に向かって最初の傷を通って魔石が飛んでくるという方法だ。


 モンスターは生きている状態で魔石を抜かれると、死んでしまうらしく二つの工程を一つに出来てとても便利だ。

 効率的に集められ、倒して魔石を抜くの二工程の場合よりも動かず半分の時間で終わらす事が出来て俺の中では革命だった。


 英雄は当たり前にやっているが、難しい魔法の性質変化を加え、離れていても何処からでも同じにように操作するなんて事は人間業では無い。

 細かい魔法の制御において、英雄の右に出る者はどこにもいないだろう。

 他の者が英雄を見た場合、スカウトがゴブリンのように大量発生してしまうのは確定演出だ。


 無双する俺へゴブリンは、物音を立てずゆっくり背後から襲って来たのだが、戦場で椅子に座ってふざけてそうに見えて油断などしておらず、しっかりと気付いておりあっさり反応してゴブリンの魔石だけを抜き出し倒した。


 周りを見て全員へバケモノと言っていたが自分も負けず劣らずのバケモノだ。


 しばらくやり続け、意識を割かずにゴブリンを倒せようになった時かなり場が進んでいた。

 中級のゴブリンは半分以下になり、ゴブリンロードもほとんど倒されていた。


 「ハルトのお兄さんは何してるの?」


 ゴブリン達が減り楽になると、一番やばいと感じたホワイトドラゴンのリンが元の小さい子ドラゴンに戻って俺へ話しかけてきた。

 リンはしっかりと話しながらも、魔法を放って雑魚ゴブリンを倒し続けており俺も見習って魔石を取り出し続けた。


 「魔石だけを取り出してゴブリンを倒してるんだよ。これなら解体しなくて良いから楽なんだよね」


 軽く説明するとリンは、変な人を見るように俺のことを眺めていた。


 「そんな事考える人初めて見た。サボってるのかと思ったらしっかりとやってたのね」


 そりゃはたから見たら、戦闘中に椅子に座って変な事してるやつはサボってると思うよな。


 「ちゃんと考えてやってるのようだし、ゴブリンもかなり減っているからやりたい事があれば手伝うわよ。あなた暇で遊んでるんでしょ」


 しっかりと俺の心の中を読まれており、少し恥ずかしくなってしまった。

 そんな見透かされた俺は、物はついでと一つだけハルトに言われて心に残っている事をお願いした。


 「俺もゴブリンロードを倒したい。そのために回復魔法と聖属性魔法を教えてくれ」

 「良いわよ。私やる気のある人結構好きなのよ。それにハルトのお兄さんの頼みなら断る訳にはいかないわ」

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