最強の兄は世界のヒーロー

 「これキツイって!ハルト早く帰ってきて!」


 俺はゴブリン達との戦闘が始まり、一時間以上に思える数分を戦っていた。

 七、八匹が同時に攻めてくるので息を着くタイミングが無く切り続け、少しずつ手数が足りなくなってくる。

 間に合わなくなったゴブリンは、極小ファイヤーボールを操作し回転をさせて貫通力高め、眉間を撃ち抜き魔力を節約して戦っていた。

 正直な所気を緩めたら、脳がパンクし侵入を許してしまいそうになる。

 それもそのはずでモンスターを数体相手しながら、魔力を最小限に抑えて戦っているのだ。


 剣一本で同時に迫るゴブリン達を相手をする。

 そして一般人では、魔法を操作する事自体が難しいのだが、今回はファイヤーボールを最小魔力で作り回転の操作を加え、ピンポイントで眉間を狙い撃ちしているのだ。

 とっくの昔に、脳のキャパシティーをオーバーしている。


 多少ならば脳に魔力を送り、処理能力を上げれば出来る。

 だが現在やっている同時処理は、先天的に特異体質を持つ人物や、スキル等でおぎなって行うものでサポート無しの、地頭のゴリ押しパワープレイで出来る事じゃ無い。

 戦闘センスだけで戦っているハルトに隠れた化け物だ。


 「フェスト加勢して!」


 俺はフェストに、単独行動をしてもらっている。

 壁を破壊しようとするゴブリン達を攻撃する役目をお願いし、壁の周りを炎を出しながら何周も走り戦ってくれている。

 フェストを呼び数秒経つと、ゴブリンへ炎を飛ばしながらヘルプに入ってくれた。


 俺は手数を増やす為に、剣を収納しマジックバックに入っている二本のショートソードを取り出す。

 即座に戦闘に戻り、フェストへ引き続き壁の守護をお願いした。

 剣が二本になり、手数が増えたおかげで動きに余裕ができ、魔法を使わなくてよくなったので魔力量と脳の処理がかなり楽になった。


 元々ハルトに教えてもらった、一体多数の乱戦の動きはショートソードを使い手数で押す方法だった。

 散々見せてもらい動きをコピーした俺からしたら、敵が前方からしか攻撃が来ないなんて楽勝でしか無かった。

 どんどんとゴブリンの死体が大量に増え山になったら蹴り飛ばす、切って山になったら蹴り飛ばすと繰り返し行う作業になっていた。

 最初から剣を間違えなければ良かったと軽く後悔をした。

 

 その頃、全世界で話題になっているニュースがあった。

 日本のダンジョンでイレギュラーが起こり、ダンジョン内で沢山の子供達が閉じ込められ、大量のモンスターに襲われているというものだった。

 これだけでもニュースのトップになりそうなのだが、子供達を全方位から迫り来るモンスター達から、一人の若い青年が被害を出さず守りきっていると大騒ぎだった。

 更にその現状をライブ配信で見れるので、国籍をまたいで応援されていた。


 コメント欄では色んな言語が入り乱れていた。

 その中の一人が書き込んだ英雄とだけの、コメントが大きく広がり、英雄やヒーロー等英雄を表す意味を持つ言葉で埋めつくされていった。

 

 そこへ追い討ちをかける出来事が最近あった。

 国内で過労で青年が倒れて入院し、大きく話題になったニュースだ。

 大事になり、記者会見を開くことになった会社側は、過労ではないと全否定していたのだが、その裏で配信された動画で倒れた青年へ酷い言葉を使い、口止め料を渡す副社長の姿が写っていた。

 その動画が火に油を注ぎ大炎上し、会社は倒産し青年はお金で屈しない姿がメディアで拡散された。


 過労で倒れた青年と子供達を守る英雄が同一人物である事が特定され、身バレしてしまい世界への情報の加速が止まらなくなっていた。


 その青年の名前は線崎せんざき 英雄えいゆう

 世界のヒーローはヒーローそのものだった。

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