夏希の初めてと討伐

 戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え戦え


 剣が何度も何度も私へ戦えと言っている。

 私とはサイズの全く合わない剣が伝え続ける。

 この剣を使う代償は何か想像もつかない。

 それは寿命だろうか。はたまた記憶や体の一部かもしれない。


 背後には、ハルトへ攻撃した下卑た笑みを浮かべ歩く、大きな緑色の気持ち悪いとモンスター。

 私の手の中には、戦いを強要する謎の白銀の剣。

 そして目の前には息を吹き返したハルト。


 このモンスターは私達を全員を殺すだろう。

 剣を取り戦えば、どうなるか分からない。

 けれど、ここで剣を取らなければハルトは死ぬ。

 なら私は一つの選択しかない。

 私の大事なハルトを守れるなら、何にだって魂を売ってやる。


 「剣!力を貸して!」


 すると手の中にある剣はぽわりと光り、小さく縮んでいき二つに分裂して両手に納まった。

 そして、悪意のない暖かな力が剣から出ているのを感じた。

 

 「あなたの覚悟しかと受け取ったわ!」

 

 二つに分かれた剣は、戦えではなくちゃんと言葉を発し始めた。


 「私とあなたはあのゴブリンロードを倒すという利害が一致したから力を貸すだけ。あなたに戦う意思が無くなったら私は一人で戦う。失望させないでちょうだいよ」

 「ゴブリンロードって?」

 「緑のおっきいやつ」

 「大丈夫。ハルトを絶対助けるんだから」

 「じゃあ、私の主人を守る為に身を粉にして働きなさい」


 そう言うと私の体内からは、生命力のようなものを引き抜かれ剣を覆っていった。

 持続的に抜かれていき、ほんの少しずつ体がきつくなるのがわかる。


 「あんたにはゴブリンロードと戦い続ける力は無いわ。だから特攻しなさい。もし怪我をしてもすぐ治るから私を信じて」


 私はこくりと頷き、残りの体力が少ないことが分かるので一瞬の時間も無駄にしないよう、ゴブリンロードへ攻撃を仕掛けた。


 ゴブリンロードは向かってくる私に合わせ、ハンマーをピンポイントで降ってくる。

 一撃で、ハルトを死に追いやったハンマーなのだが、全く恐怖が湧いてこなかった。

 私はハンマーをジャンプして避け、取っ手の部分にひびがあるのを見つけた。

 そのひびに向かって、右手に握っている剣へ体力を集中し振り下ろした。

 すると剣は綺麗に切断し、頭と取っ手を二つに分離させた。


 「あんたどうやって!?」

 「分からないけど何となく」


 今まで一度も握ったことの無い剣なのだが、どう振り抜いたら良いのか手に取るようにわかった。

 そして身体能力が上昇し、男の子達を助けに行ったハルトのような動きが可能になり、体が思ったように動いていた。


 「何か凄く良い」


 ゴブリンロードは、取っ手だけになったハンマーを捨て、早くキレのある拳で攻撃してきた。

 最初は全てをさばき流しながら、体へ攻撃してきいたが私の体力が減りが激しく、動きが鈍くなってしまい捌く事が苦しくなっていた。

 そこからは機動力と、踏み込む力を低下をさせる為、足を重点的に狙う作戦にした。

 すると直ぐに効果が現れ、ゴブリンロードは機動力が落ちて動きが悪くなり、モーションが大きくなった。

 

 私は大振りとなったパンチをしっかり狙いすまし、拳へ縦に剣を入れ肩まで切り割いた。

 更に小さい体を縮め、股の間を通り足を切り一度距離をとる。


 ゴブリンロードは離れた距離を瞬時に詰め、縦に裂かれた腕から青色の血を飛ばしながらムチのようにしならせスイングした。

 その腕を私は分かり易く二度目のジャンプ回避をし、左腕でのパンチを打つように誘導した。

 するとゴブリンロードは、思惑通りにパンチを打ってくれた。

 私は打たせたパンチに手をかけて登り、顔へ踏み込んで剣を横に振り頭部を輪切りにし、ノーダメージでゴブリンロードを討伐した。


 「ハルト。今度は守れたよ」


 私はハルトの顔を見て、張り詰めていた緊張が解け意識を手放した。

 次に目を覚ましたのは、ハルトの腕の中だった。

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