見覚えのある表情と知らない力

 友達が出来て翌日、ハルトは幼稚園に来なかった。

 仕方なかったので、一人で午前にある一時間の自由時間過ごしていたら、私の足にボールが転がってきた。


 「ごめん、ね」


 ボールを取りに来た元気な女の子は、私の顔を見るなりオドオドし怖がっていた。

 その顔は昔よく見ていた、一番仲の良かった元友達だったのだ。

 

 元友達の反応は私が周りに、どう思われているかよく分かる反応だった。


 「気を付けなさいよ」


 私は特に注意せずボールを渡してあげる。

 すると女の子は、元気な姿に戻り笑ってくれた。


 「ありがとう!」


 その子が久しぶりに向けてくれた笑顔にぽつりと言葉が出た。


 「遊んでくれる?」

 「うん!一緒に遊ぼう!」


 私は久しぶりに沢山遊んだ。

 最初は皆困っていたが、怒られないと分かり気兼きがね無く一緒に遊んでくれた。

 居なくなった友達は帰ってきた。

 ではなく私が帰って行ったのだ。

 それを受け入れまた友達になってくれた。

 意外と失った物は、間に合う限りなんとかなると知った。

 


 ダンジョン遠足の日ハルトは遅刻してきた。

 強く言うつもりは無かったけれど、何故か強く注意してしまった。

 更にただの遅刻では無く、トラブルに巻き込まれていたらしい。

 私は素直にごめんと言えず強がっていたのに、ありがとうと言われ頭を撫でられた。

 すごく嬉しくて、お母さんの時とは違う温かさを感じた。


 しばらく一緒に行動し、スライムとたわむれているとハルトは美雪先生とイチャイチャしていた。

 二人の姿を見るとすごくイライラした。

 美雪先生の場所が私じゃないと嫌だった。

 もう怒ったりしないと思っていたのに怒ってしまった。

 そこから普段、言い返さない美雪先生と言い合いをする。

 その途中、男の子達がダンジョンの階段を登ってしまい、ハルトと美雪先生は私を置いて助けに行ってしまった。

 どうしてかは分からないが、二人を行かせてはいけない気がした。


 私の中の何かが、二人を止めるように促していた。

 二人を止める為に走っても全く追いつけない。

 特にハルトは直ぐに見えなくなっていく。

 階段を上り、矢印を辿たどってなんとか集合することは出来た。

 話を聞くと、ハルトがあと少し遅かったら皆死んでいたかもしれなかったらしい。

 胸騒ぎの原因はこれだったのかと解釈し、何も無くて良かったと思った。

 けれど、危機を回避したのに胸騒ぎは止まらず増す一方で、ハルトの腕をずっと捕まえていた。


 階段が近付き、これでもう大丈夫と安心してハルトの腕を離し階段へ向かう。

 振り返ってハルトを手招きしてみると、皆は私を恐れた顔をしていた。

 いつも幼稚園で私を見る顔では無く、命の危険を感じるような日常では見る事が無い表情だ。


 けれどハルトだけ、見たことある表情をしていた。

 ハルトは私の元へ走り込み、二年前に聞いた言葉でその表情を思いだした。


 「ごめん」


 ハルト表情は、自分を犠牲に私を助けたお母さんと同じだったのだ。


 私が居た場所には何かが高速で通り、ハルトは全身から血を出し壁に叩きつけられていた。

 

 「ハルト起きて!ハルト起きて!」


 何度揺らしても返事は無かった。

 あの時のお母さんのように。

 私と美雪先生は、泣きながら何度も声を掛けた。

 けれどハルトは動く事無く、流れていく血が溜まっていく一方だった。

 そんな物になった体を見つめることが出来ず、私はハルトの体に頭をつけた。


 「動いてよ。死なないでよ。生き返ってよ」


 すると一瞬、ハルトから強力な光が出てダンジョンを照らし、体は淡く光っていた。

 血溜まりが無くなっていき、ハルトの怪我が消えトクントクンと心臓が鼓動を始めていた。


 「なんで」


 死んでいたはずのハルトが生き返ってたのだ。

 そして私の手が光り始め、段々と光が長くなり手のひらには白銀の剣が握られていた。

 私に剣が戦えと言っているのが分かった。

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